「坂井君さ~、やってみたい事とかある?」
天気も良く、ツーリング日和のある日、僕は彼の自慢のバイクの横へ行って、小さな声でそう訊ねた。
他に10台以上ものバイクでツーリングしていて、辺りには同じようにバイクを停めて休憩している仲間もいたから、大きな声でこんな話をする訳にはいかなかったのだ。
「やってみたい事っすか?」
「うん、綾乃はまた坂井君とヤッても良いと思ってるみたいだからさ、近いうちに2回目の段取りをつけたいと思ってるんだけど、次も前回と全く同じじゃ芸がないしさ、せっかくだから、坂井君のやってみたい事を綾乃にさせたらどうかなと思って」
「マジっすか!?奥さん、次もOKしてくれたんすか?」
「まぁね、坂井君が頑張ったからだよ」
「マジで奥さん、またやりたいって言ったんすか?」
(う~ん、またやりたいとは言ってないなぁ・・・)
「まぁね」
(ま、でも、そう思わせておいた方が、坂井君的にも盛り上がるだろう)
綾乃は、決して進んで「坂井君とエッチがしたい」とは言わなかったが、僕はその方が今後の展開が楽しいだろうと思って、そこはアヤフヤに返答した。
「たぶん、坂井君さえ迷惑じゃなきゃ、次もあると思うんだけど・・・どう?」
「いや、それは嬉しいっすよ」
「じゃあ、決まりで良いね?2回目・・・」
「はい、お願いします」
どうやら、坂井君も綾乃との行為を気に入ってくれたようだ。
「でさ、さっきの話なんだけど、何かやってみたい事ってない?」
「やってみたい事って・・・裸エプロンとか・・・そんな感じっすか?」
「まぁ、坂井君がやりたいなら、それも考えるけど・・・そう言うのが好きなの?」
「いや、そう言う訳じゃないっすよ、他に思いつかなかったんで・・・」
確かに、バイクを通じて知り合っただけの男に、いきなり「妻にやってみたい事はないか」と問われても、即答するのは難しいだろう。
「例えばさ、普段、坂井君がアダルトDVDとか見てて、これ、やってみたいなぁなんて思う事・・・ない?」
「DVDっすか・・・」
彼は急に真顔になって考え始める。
大きなハーレーに皮のツナギを着て、真顔で跨る彼の姿だけを見れば、なかなかどうして、彼女がいないのが不思議なくらい様になる。
「DVD・・・」
しかし、今、そんな彼の脳裏にあるのは人妻にどんな悪さをしてやろう・・・そんな考えだ。ただ、そんな事すらも真面目に考える彼は、やっぱり良い奴なのかもしれない。
「おぉ~い、出るぞ~」
その時、ツーリングチームのリーダーが大きな声でそう言った。どうやら次の目的地に向けて出発するらしい。
「ま、考えといてよ、後で聞くからさ」
「あ、了解っす」
僕は彼にそう宿題を出して、自分のバイクに跨った。
※※※
「で、どう?何か思いついた?」
僕は対面に座る彼にそう訊ねた。
ツーリングがお開きになった後で、僕は彼を食事に誘った。とは言え、僕だってそんなに金銭的に余裕がある訳じゃないから、今、僕らがいるのは普通のファミレスだ。
「あ、一応考えたんすけど・・・」
何故だか言い難そうな彼。
「言ってみてよ、ダメな事もあるかもしれないけど、出来るだけ実現できるように俺も頑張るからさ」
「いや、でも、きっとダメっす」
「言うだけ言ってみなって」
「はぁ、いや、孝介さんがエロ系のDVDとかって言うから思いついたんすけど・・・」
「なんだよ、早く言えってば」
「いや、ダメなら全然良いんですけど、ああいう系のDVDって、最後、顔にかけたりして終わるじゃないっすか」
(顔射か・・・)
僕は、顔射にはちょっと抵抗があった。
何だか、身体だけじゃなく、綾乃の心までも汚されるようなその行為に、上手く言葉では説明できない拒否感を感じていたのだ。
「あぁ、まぁ、そう言うのもあるよね」
「だから、そう言うのどうかなとかって・・・」
(ダメだ・・・顔射は・・・ダメだ・・・)
心の中でそう思う僕。
「坂井君は?ヤッてみたいの?それ」
(断れ・・・早く断るんだ・・・)
「いや、やってみたいって言うか・・・俺、経験ないんで・・・」
「やってみたい?」
「いや、出来れば・・・経験してみたいって言うか・・・全然、ダメなら良いんす」
(ほら、坂井君も絶対やりたいって感じじゃないじゃないか・・・断れば、それで済む・・・)
「上手く出来そうかい?」
「いや、やった事ないんで自信ないっすけど、DVDとかでは見た事あるんで、アレの真似すれば出来るかな・・・なんて・・・」
「解った、綾乃には伝えておくよ、次回、坂井君とやる時は、顔にかけてもらえって・・・」
「ま、マジっすか!奥さん、怒るんじゃないっすか!?」
「どうかな、一応説得してみるけど、ダメだったら勘弁してよ」
「勘弁なんて、そんな・・・」
「そのかわりと言っちゃなんだけどさ・・・」
「なんすか?」
「次は、俺も目の前で2人がやってるところを見せて欲しいんだ」
「それも、奥さん、怒んないっすか?」
「そっちは大丈夫だと思う」
(野本さんの時に経験済みだから・・・)
そう言いかけて、慌てて口を閉じる。野本さんと綾乃に肉体関係がある事は坂井君には内緒にする約束だったのを思い出したのだ。
「なんか恥ずかしいっすけど、孝介さんがそう言うなら・・・了解っす」
こうして、次回の坂井君との行為は「綾乃が顔射される」と言うのが最大の見どころと決まった。後はコレをどう彼女に伝えるか・・・それだけだった。
※※※
その夜、僕は綾乃を抱いた。
野本さんの時からそうだったけど、綾乃が誰か他の男とそうした行為に及ぶと、僕の性欲は一時的に一気に高ぶって、しばらくの間、夫婦の行為の頻度は増える。
それは綾乃も解っていた事だったから、今夜も大人しく僕の誘いに応じて身体を晒している。
そうして夫婦の行為も佳境に差し迫り、綾乃が乱れてきた頃に、僕は昼間の坂井君との話を持ちだす。
こんな類の話をするのは、やはり、同じような行為に及んでいる時が一番話題にし易い事は経験で知っていた。
「綾乃・・・昔、不倫してたでしょ?」
「あっ・・・あっ・・あ・・え?」
「不倫してた事あるでしょ?」
「・・・あ・・・うん・・・ごめんなさい」
「いや、別に責めてるんじゃないけどさ」
「・・・・・」
「その男に1回だけ顔射された事あるって言ってたよね?」
「顔射・・・?」
「あぁ、だから・・・顔に精液かけられる事を顔射って言うんだけどさ」
「・・・・あ・・うん・・・1回だけ・・・あったと思う」
「思う」と綾乃は返答したが、僕にしてみれば、その経験は相当なショックだったから、忘れようにも忘れられない。おまけに、こうして活字にしてその時の会話を残しているから、それを読み返せば、もっと明らかだ。
「俺も・・・綾乃が顔に精液かけられる所・・・見たいな」
ゆっくりと腰を動かしながら、綾乃にそんな甘えた事を言ってみる。
「あっ・・・あっ・・・あっあっ・・・・え?」
「だから・・・綾乃の可愛い顔が精液塗れになるところ・・・俺も見たい」
「あっ・・・あ・・・うん・・・いいよ・・・あ、でも・・・出来るだけ髪にはかけないようにして欲しいな・・後で大変そうだから・・・」
どうやら、今、僕が綾乃に顔射したいと望んでいると勘違いした様子の彼女。
まぁ、今まさにセックスの真っ最中な訳だから、彼女がそんな風に勘違いするのは責められまい。
「いや、俺じゃなくてさ・・・」
「え?・・・どういう・・」
「綾乃が、坂井君の精液で汚される所を見たい・・・」
「それは・・・だって・・・そんな・・・」
「いいでしょ?」
――ギシっ・・ギッシっ
腰の動きを少し激しくしながら問う。
「だって・・・そんな事・・・普通じゃない・・・もん」
「でも、不倫相手にはさせたんでしょ?」
「それは・・・だって・・・」
「そいつには見せられるのに、俺には見せてくれないの?」
「だ、だから・・・孝介には・・・させてあげるよ・・・今、顔にかけても良いから・・・」
「そうじゃないんだって、わかるだろ?俺は俺以外のやつが綾乃を汚すところがみたいんだよ、不倫相手は自分で汚す事で満足したのかもしれないけど、俺は違うんだ」
「だって・・・そんなの・・・」
「俺も綾乃の顔が汚される所を見て満足したい・・・」
「・・・・・」
「こ、孝介が・・・孝介に・・・顔に・・・されるんだったら良い・・よ」
「それじゃあ、俺は満足出来ないんだ・・・ごめんな」
「・・・・・」
――ギッシギッシギッシ・・・
「あっ・・あっ・あっ・あっあっあっ・・・んっ」
「綾乃・・・」
「あっあっあっ・・・あっ・・・は・・・はい・・っ?」
「・・・俺も満足させてくれよ・・・坂井君のを顔に・・・良いだろ?・・・俺はそれで満足するから・・・」
「あっ・・・あっ・・・」
「頼むよ、俺は坂井君に汚される綾乃を見て満足したいんだよ。俺も・・・不倫相手と同じように満足したいよ・・・良いでしょ?」
「・・・・・あっ・・・あっぁ・・・は・・・はい・・・っ」
「良いって事?坂井君に汚されてくれるってこと?」
「あっ・・・あぁっ・・・あっ・・・が・・・頑張・・・る・・・っ」
綾乃は坂井君に顔射される事を承諾した。おそらく、不倫男と僕を同じ土俵に立たせた事で、彼女を精神的に弱い立場に立たせる事に成功したのだろうと思う。それは彼女にとっては苦痛だったかもしれないが、こんな話を説得するには、そんな酷い作戦を使うしか方法がなかった。
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