綾乃は嘘をつかない。
そりゃあ、多少話を大袈裟に言ったり、逆に小さく話したりする事くらいはあるけれど、話の結論を逆にするような嘘は聞いた事がない。
勿論、僕が気が付いていないだけで、本当はすごく嘘が上手いと言う可能性もあるけれど、彼女は、とてもじゃないけれど、そんな器用さは持ち合わせていないから、きっと嘘はつかないのだろうと言うのが、長年一緒に暮らしてきた僕の結論だった。
「俺とするのと、坂井君とするの・・・どっちが気持ち良かった?」
ある日、夕食を終えて、その片付けをする妻に向かって、僕はそう訊ねた。
「孝介とするほうが良いに決まってるじゃん」
即答する妻。
「ホントに?」
「本当だよぅ、なんで?」
逆に、どうして疑うのかと質問される僕。
それは、彼らの行為の一部始終をモニター越しに見ていたからに他ならないのだが、それは綾乃には内緒だ。
「いや、何となく・・・さ」
だから、そう答えるしかない僕。
「ああ言うのは、好きな人とするのが一番良いに決まってるよ」
そう言う綾乃が可愛らしくも思えたけれど、同時に、僕の脳裏には坂井君に激しく突かれて果てる綾乃の姿が浮かぶ。
「でも、気持ち良かったでしょ?」
居間で流行りのゲームに興じる子供に聞こえないように小声で言う僕。最近はきちんと親の会話を聞いているから、彼の前で変な事は言えないのだ。
「それは・・・だって・・・少しは・・・」
「少しだけ?」
「・・・・・」
「でも、イッちゃったでしょ?」
「な、なんで!?」
「なんでって・・・坂井君に聞いたよ」
それは嘘だ。
彼とは、アレ以降、一回も会っていないから、そんな話は聞けていない。
彼から聞いたんじゃなく、モニターを介してとは言え、妻が果てるところを見ていたのだ。
「ね?綾乃がイッたみたいだって教えてくれたよ?どうなの?」
「・・・・ちゃった」
「え?」
「イッちゃった・・・ごめんなさい」
「別に謝らなくて良いよ、綾乃が気持ち良くて良かった」
「・・・・・」
「でも、イッたんなら、相当気持ち良かったんだね」
「そんな事っ・・・ないもん」
「何回イッた?」
「そ、そんなに何回も・・・1回だけだよ」
何故だか、1回しかイッていないと自慢げに訴える妻。
「何されてイッたの?」
「何って・・・」
「だって、綾乃は俺とするとき何回もイクじゃん。指入れられたり、舐められたりとか・・・あと、入れられてる時とか・・・坂井君とはどのタイミングだったの?」
「そんな話・・・いいじゃん」
「良くないよ、終わったら2人から話を聞くって言ったでしょ?俺は2人がするところを見てないんだから、話も聞けなかったら何のために綾乃にお願いしたのか解らないよ」
「・・・・・」
「でしょ?」
「・・・うん」
「じゃあ、教えてよ、何をされてイッたの?」
「・・・普通に」
「普通?普通って何さ」
「だから・・・普通に・・・入ってる時に・・・イッた」
「ふ~ん、どんな態勢で?」
「そんなこと・・・」
「教えて?」
「・・・・・普通の時」
「だから、普通じゃ解らないってば」
「だから・・・普通に、私が上を向いてる時・・・」
「ふ~ん、他にどんな態勢でしたの?」
「・・・・・」
「ねぇってば」
「後ろ・・・」
「後ろ?」
「だから・・・その・・・バック・・・って言う・・やつ」
「バックもやったんだぁ」
「だってっ・・・坂井君が・・・そうした」
「別に言い訳しなくても良いんだってば、綾乃が上にはならなかったの?」
ブンブンブンと大きく左右に首を振って否定する彼女。騎乗位をしていない事は知っているけれど、わざとらしくそれを訊ねてみる。
「そっかぁ、何でしなかったの?」
「やれって・・・言われなかったし・・・」
「ふ~ん、口では?してあげたんでしょ?」
コクリと小さく頷く彼女。
「綾乃は口でするの上手いからなぁ」
「上手くないもんっ」
「上手いってば」
「上手くないっ」
「坂井君、我慢できずに口の中で出ちゃったりしなかった?」
「それはっ・・・」
知っていて訊ねる僕。
我ながら白々しい芝居だ。
「どう?出ちゃったんじゃないの?」
「で、でもっ・・・我慢できずにって感じじゃ・・・なかった・・・」
「じゃあ、どんな感じさ」
知っている。
出来ればセックスまでしたくなかった妻は、最初から坂井君を射精させるつもりでフェラチオしていたのだ。
「どんなって・・・」
でも、そんな事を僕に言う訳にはいかない彼女は答えに窮する。
「だって、これからエッチしようって言うのに、わざわざ口だけで終わらないでしょ?普通」
「でも・・・」
「でも、綾乃の口の中に出ちゃったんでしょ?」
「・・・うん」
「そりゃあ、綾乃が上手いから、出ちゃったんだよ、きっと」
「違う・・・もん」
否定が弱々しくなる。
「ま、いいけどさ」
「・・・・・」
実際にモニター越しに2人の行為を見ているのだから、そんな細かい事はどうでも良い。とにかく、坂井君は綾乃の口内で思い切り射精したのを見ているのだから。
「で、野本さんとするのと、坂井君とするの・・・どっちが良かった?」
僕との比較では正直な感想は訊けないようだったから、僕は野本さんを引き合いに出してみる。
「そんなの・・・同じだよ・・・どっちも」
「ホントに?だって、坂井君の方がかなり若いし、勢いもあるんじゃないの?」
「・・・・・」
「どう?」
「勢い・・・」
「そう、若さに任せてって言うか・・・そう言う感じは野本さんにはないでしょ?」
「それは・・・そうかも・・・」
「で、どっちが気持ち良かった?」
「・・・・・」
「じゃあさ、どっちが硬かった?綾乃は硬いのが好きだもんね」
「そんな・・・」
「どっち?どっちが硬かった?」
「・・・坂井君」
「でしょ?じゃあ、坂井君の方が良かったんじゃないの?」
「・・・そう・・・かもしれない」
「やっぱり~」
「で、でもっ・・・でも・・・孝介の方が・・・いい」
繰り返し、僕の方が良いと訴える綾乃。あまりにしつこいと、逆に怪しいと言うものだ。
「ところでさ、後から気が付いたんだけど、コンドーム・・・無かったでしょ」
「あ・・・うん」
「どうしたの?もしかして生でヤッちゃった?」
「そんな事しないよ!」
「でも、坂井君も用意してなかったんじゃない?」
「・・・・・うん」
「じゃあ、どうしたの?」
「ウチにあったやつ・・・使った」
「へぇ、坂井君、よくウチにコンドームあるって解ったね?」
「・・・・・」
「どうしたの?」
「ううん・・・なんでもない」
自分からコンドームの場所を教えたとは言わない綾乃。
「ま、妊娠しちゃったら困るしね、生はマズいよね、やっぱ」
「・・・うん」
やっぱり自分から教えたとは言わない。
僕に、その事は言いたくないようだ。
「で、次回なんだけどさ」
「え?」
「だから、次に坂井君をウチに呼ぶときの事なんだけど」
僕は、綾乃が自分からコンドームの場所を教えたとは言わない事を予測していた。予測した上で、あえてそれを話題にして、彼女に隠し事をさせたのだ。
「でも・・・1回だけって・・・」
「それは、綾乃が気持ち良くなかったら、1回だけで終わりにしても良いよって言う約束だったじゃん」
そうやって、あえて僕に隠し事をさせる事で、彼女に後ろめたさを感じさせた。そうする事が、これから僕が話そうとしている「坂井君との次回」に向けて有利だと思ったからだ。
「そう・・・だったかな」
「そうだよ」
「でも・・・」
「さっき、気持ち良かったって言ったよね?」
「・・・・・」
「坂井君とエッチして、イッちゃったって・・・言ったよね?」
「・・・・・」
「そうでしょ?」
「・・・・・うん」
「イッたって言う事は気持ち良かったって事でしょ?」
「・・・うん」
「じゃあ、1回だけって言う約束には当てはまらないよね?」
「・・・・・」
「そうでしょ?」
「・・・うん」
こうして僕は、いとも簡単に「次回」の約束を取り付けた。
野本さんの時よりも、あっさりと、坂井君と2回目のセックスをする事を承諾した妻。
(坂井君とは、もう一度セックスしても良いと思ってるんだな・・・)
野本さんの時のように、時間をかけて説得しなくても、思ったよりあっさりと話が進んだ事に、僕はさらに興奮した。
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