「あの・・・シャワー、終わりました・・・けど」
ウチの浴室から、消え入りそうな声でそう言いながら坂井君が出てきた。
「あ~、そこの椅子に座って待っててよ」
僕はその彼に少し待つように伝える。
「綾乃~、綾乃~、坂井君がシャワー終わったよ~」
それから、2階に引っ込んでしまった妻を大声で呼ぶ。
――ゴトっ
何の音か解らないけど、2階で物音が聞こえた。
野本さんが帰宅した後、僕は坂井君にシャワーを浴びてくるように言った。清潔感のある若者ではあるけれど、今日は暑かったし、少しでも綾乃の抵抗感を薄めるためには、その方が良いだろうと思ったのだ。
綾乃は、彼がシャワーをしている間、一言も口を開かなかった。ただ黙って2階へ上がって行ったきり、今の今まで降りてこなかった。
(怒っちゃったのかなぁ)
なかなか降りてこない妻に痺れを切らして、2階に様子を見に行こうと思っていた時、ようやく扉の開く音がして、ゆっくり、ゆっくりと綾乃は1階に降りてきた。
※※※
「若いから辛いかもしれないけど、今日はフェラチオだけで我慢してくれな」
食卓テーブルの椅子に腰かけた坂井君へ僕はそう声をかけた。
「我慢なんて、そんな・・・」
まだ信じられない・・・と言った表情で僕を見ながら彼はそう言う。
「さすがに俺に見られてたら嫌だろうから、俺、そっちの居間のソファでテレビでも見てるわ。終わったら声かけてよ」
「はぁ・・・あ、・・いや」
「ん?どうした?」
「いや、コレ・・・その・・・マジっすか?」
「なんで?」
「だって・・・その・・・奥さんにそんな事してもらって・・・良いんすか?」
「なんで俺に訊くんだよ、するのは綾乃だぞ?訊くなら綾乃に訊けよ」
僕は笑いながら彼にそう返答する。
「あの・・・」
僕の傍らに黙って立ち尽くす綾乃に視線を向ける坂井君。
恥ずかしげに目を逸らす綾乃・・・ゾクゾクする。
「綾乃、坂井君が本当にフェラなんてしてもらっても良いのか?って訊いてるぞ?」
その綾乃に向かって返答を催促する僕。
ふと、彼女を見ると、上衣を着替えているのに気が付いた。
(なるほどね・・・)
僕は微笑ましげにそんな妻を眺める。
さっきまで着ていた薄手の服では、胸元が少し開いてしまうだろう。彼女は野本さんの時に、胸元を警戒しなかったせいで、乳房を揉まれて、そこからなし崩しに性行為までしてしまった経験がある。
変に胸の谷間なんかが見えて、若い彼を刺激しないように、着替えて来たに違いない。
(学習したんだな)
天然ボケで警戒心の薄い彼女にしては珍しくって、その行動が微笑ましい。
「綾乃、坂井君が本当にフェラなんてしてもらっても良いのか?って訊いてるぞ?」
「・・・・・」
「答えてあげないの?」
チラリと僕を見上げる妻。
その妻の頭を優しく撫でながら、黙って視線を投げ返す僕。
「良いです・・・」
その後で、彼女は坂井君に小さな声でそう返答した。
※※※
坂井君は食卓テーブルの前にある椅子に座ったまま、その足元に綾乃が跪いた。
「じゃ、俺、あっちに行くから、坂井君もパンツ脱いでよ」
「あ・・・は、はい・・・」
クルリと彼らに背を向けて居間へ向かって歩く。食卓と居間との間には小さな和室が迫り出していて、ソファに座ったままでは2人の行為は全く見えない。
しかし、ちょっと身を乗りだせば見える位置での出来事だ。2人が行為を始めたら、こっそり覗いてやろうと僕は決めていた。
――カチャ、カチャ
居間にいても聞こえる、坂井君がベルトを外す音。
――ゴソゴソ
それから、おそらくズボンを下げたと思しき音。
――ギッ
再び、坂井君が椅子に腰を下ろしたと思しき音・・・。
――・・・・・。
その音を最後に静かになる室内。外を通る車の音がやけに騒がしく聞こえる。
(始まったのかな・・・)
人の気配は感じ取れるけれど、行為が始まったのかどうかは解らない。
(静かだな・・・)
最初は、耳を澄ませて様子を探っていた僕は、早くも我慢が出来なくなってきた。
(ちょっとだけ・・・)
ソファを静かに立ち上がると、静かに、静かに移動して、2人が見える位置に立つ。
妻と坂井君を横から見る位置だから、彼のモノもハッキリ見えるし、妻が奉仕している口元もハッキリ見えるはずだ。
(おっ)
最初に僕の眼に飛び込んできたのは、右足首にパンツとズボンを引っかけて、左足は靴下だけと言う、少し情けない格好で食卓の椅子に座る坂井君の姿。
それから、両脚をやや開き加減にした彼の足の間にチョコンと座っている妻。
そして、躊躇いがちに伸ばした右手は、殆ど直角といっても良いくらいビンビンに屹立している彼のモノを握って、これまた遠慮がちにゆっくり上下に動いていた。
2人の行為は良く見える。
しかし、綾乃が少し顔を左に向ければ、僕が覗いているのがバレる。
そんな位置関係だったから、僕は息を飲んで2人を見守る。
呼吸の音さえも出してはいけないような、そんな空気が室内に流れる。
坂井君は目を瞑るでもなく、気持ち良さそうな顔をするでもなく、じっと綾乃の手元を凝視している。
人妻の手に扱かれている男根が、まるで自分のモノではないような錯覚にでも陥っているのであろうか。
(まさか、手だけで終んないだろうな・・・)
苦労して、ここまで話を進めたのだ。それでは割に合わない。
綾乃の手の動きが少しずつ早くなっていく。いくら彼女が天然ボケとは言え、一応、人妻だ。
ここまで来たら、男性を射精させないと納まらない事くらいは解っているのだろう。
(手で終われば良いと思ってんだろうな)
激しくなる妻の右手の上下を静かに眺めながら、そんな風に思ったけど、覗いているのがバレるから余計な口出しは出来ない。
(あっ!)
と、その時だった。
何気なくコッチを見た綾乃と眼が合ってしまったのだ。
「ちょっ、何で!?」
坂井君のモノを握っていた右手を慌てて離して、大声をあげる妻。
「だって、やけに静かだからさ、どうなってるのかなって思って」
「だからって見ないでよ~」
「いいじゃん、少しくらい」
「ヤダよ~」
「あっ、ほらほら、早く坂井君にしてあげないと、丸出しで可哀そうだよ」
「え?」
「ほら、坂井君がおちんちん丸出しで可哀そうだって言ってるんだよ、早く、続きをしてあげて」
「でも・・・」
「はら、早く早くっ」
もともと鈍い妻は、人に急かされるのが苦手だ。
僕は咄嗟にそれを利用しようと考えたのだ。
「やっ・・・あの・・」
「早くっ、可哀そう・・・ほら、早く早くっ」
「あ、はい・・っ」
案の定、弾かれるように慌てて、坂井君のモノを握り直す妻。
恥ずかしいのか、僕の方には全く視線を向けようとしない坂井君。
「ほら、もっと激しく手を動かしてあげて」
見つかってしまった事を逆手にとって、妻にそう指示を出す僕。
「う、うん」
言われるままに、右手の上下を激しくしていく妻。
さすがに飄々とした表情を維持できなくなってきた坂井君は少し上を見上げるような様子で「ふぅ」と大きく息を吐きだした。
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