最初に視界に入ったのは、ソファに大股開きで座る野本さんの姿だった。
とは言っても、妻は明るい場所では決して性的な行為をする女じゃないから、居間はすべての灯りが消されて真っ暗だし、その表情までは見えない。
ただ、ビデオカメラのモニターから漏れる薄い灯りだけが、2人の位置を何となく照らす。
眼が慣れてくる・・・。
すると、大股開きにソファに座る野本さんの、開かれた足の間に黒い影が見え始めた。さらに目が慣れてくると、その陰は彼の股間でモゾモゾと蠢いているのも見える。
――チュッ・・チュっ
その影が動く度に卑猥な音が聞こえる。
もう少し目が慣れてくると、野本さんの股間に蠢く影が、屈んだ人型に見えてくる。きちんと人型に浮かび上がったシルエットは、その首から上・・・頭の部分だけが忙しなく動いている。
――チュッチュっチュっ・・・
覗く事に慣れてきた頃には、そのシルエットの頭の部分からその音が聞こえる事も何となく解るようになってきた。
(綾乃・・・綾乃・・・)
綾乃が野本さんにフェラチオしている事は勿論知っていた。それに、野本さんが撮影してくれたビデオのお陰で、こんな薄暗いシルエットじゃなくて、綾乃の細かい舌の動きや頬を凹ませて彼のモノを咥え込む姿までも、見た事がある。
でも、この興奮はなんだろう。
ただ、暗い部屋の中で、真っ黒い影の塊が蠢いているのが見えるだけ。それは辛うじて、人だと言う事が判別できるだけで、何とか頭が動いているのを判別できる程度・・・。
そんな不鮮明な景色なのに、得も言われぬ・・・今まで感じた事もないような興奮。
「あぁ、奥さん・・・それ・・・気持ち良い・・・」
野本さんの声に、ふと我にかえって影を見る。
彼の股間に伏せる妻の頭のシルエットが、野本さんの足の付け根から上へ向かって動いては再び下へ戻り、また上へ上がってくる。
あれは、妻が僕にもしてくれる事のある、男根の付け根から先端にかけて・・・裏筋を舐めあげる行為だと、影を見ているだけで解る。
それを2度、3度と反復しているようだ。
「奥さん・・・胸、触っていい?」
やおら、野本さんが妻を見下ろしながらそう言った。
「らめれす・・・」
妻が躊躇いなくそれを拒否する。
しかし、その拒否する妻の声が、明らかに男根を舐めながらのものだったから、僕はそれだけでも興奮倍増だ。
「ちょっとだけだから」
「ダメですよ、そうやってちょっとじゃ済まないじゃないですか」
今度は男根から口を離し、ハッキリと拒否する妻。
そう言えば忘れていたけれど、野本さんはおっぱい星人だった。妻の胸を触りたがるのも無理はあるまい。
「触ったら、すぐに終わるんだけどなぁ」
「・・・・・」
――ジュプっ・・・ジュポっ、ジュポッ、ジュポッ・・・
と、急にフェラチオが一段と激しくなった事を、暗闇に響く音が教えてくれた。
「う、あぁぁ」
野本さんが堪らずに呻く。
暗闇に目を凝らすと、妻の頭部のシルエットが野本さんの股間でリズミカルに上下運動を開始している。
――ジュッポっ、ジュッポ、ジュッポ・・・
一定のリズムで響く音・・・その音と全く同じタイミングで上下する妻の頭部のシルエット。
「おっ・・・あっ」
時折、切なげに呻く野本さん。
(このまま発射しちゃうんじゃないかな・・・)
妻の頭の上下運動は一定のリズムを刻んでいて、かつ、音から察するに結構な強さで吸い付いていると予想される。
これは、妻が僕を終わらせる時の動きに近い。
(そんなに胸を触られたくないのかな・・・)
きっと、野本さんが胸に触りたいと言いだした事で、そうなる前に彼を終わらせてしまおうと考えたのだと思う。急に激しさを増したフェラチオはそう言う事ではないだろうか。
と、突然、妻の動きが止まった。
野本さんの股間に顔を伏せたまま、全く動かなくなるシルエット。
(え、もう終わり?)
一瞬、そう思ったけれど、そうではなかった。
2階で響く音楽が止まったのだ。正確には曲が終わって、曲間の静寂となったのだ。
その静寂の中で、フェラチオの音が2階に響く事を嫌って動きを止めたのであろう妻。そんなに僕に音を聞かれたくないのか。
もし、今、音どころか、こうして彼女が野本さんに口奉仕している姿を、影だけとは言え眺めている事がバレたら、本当にどうなる事か・・・想像しただけでも恐ろしい。
とは言え、せっかく手に入れた新しい興奮を失う気も毛頭ない。
――チュっ・・ジュポっ、ジュポッ・・・
そうこうしているうちに、2階の部屋ではすぐに次の曲が始まった。その音が聞こえだすと、再び卑猥な音を出しながら上下に動き始める妻の頭部・・・。
「あぁ、奥さん、すげぇ・・・」
――ジュポっ、ジュポっ、ジュポッ
「ちょっと、奥さん・・・ストップ・・・」
――ジュポっ、ジュポッ、ジュポッ
「ちょっ、待ってって・・・ば」
――チュポッ
「なんでですかぁ?」
半ば強引にフェラチオを中断させる野本さんと、それに不満そうな妻。
「ちょっと、足・・・攣りそう」
「え?」
「気持ち良くなってきたら足に力入っちゃって・・・攣りそう」
どうやら、ソファに座ったままで大きく足を開く姿勢は、彼にとって安楽な態勢ではなかったようで、脚が攣りそうだと訴える。
「どうします?」
だからと言って、どうしたら良いのか困る妻。
「ちょっと、横になってもいい?」
「いいですけど・・・」
いつも、野本さんが妻に口でしてもらう時には、ゴロリと横になっている事が多い。よくよく考えれば、座ったままで行為に及んでいる、現在の姿勢の方が珍しい。
――ゴソゴソ・・・
妻の許可を得た野本さんは、ソファにゴロリと横になった。
それを見て、彼に何を言われた訳でもないのに、ソファに上がって、野本さんの足元にチョコンと座る妻の影。
位置関係が変わった事で、僕は側面から2人の行為を覗き見る形になった。さっきまでは妻の背後から覗く形だったから、そうそうバレる危険性もなかったけれど、今度は注意しないとバレ兼ねない。
(気を付けないと・・・)
しかし、側面からの眺めは、背後からのそれとは違った。
――チュッ・・チュっ・・・ジュルっ
卑猥な音とともに、側面から見る妻の口淫姿。
頭部のシルエットは右へ傾き、左へ傾き、下から上へ舐めあげて・・・縦横無尽に動き回る。
ビデオで見ているのとは違って、彼女が普段、フェラチオのためにどれだけ大きなアクションを起こしているのかがよく解る。
「足・・・大丈夫ですか?」
妻がポツリと訊ねた。
「うん、この姿勢なら大丈夫みたい」
野本さんが返答する。
――ジュポっ、ジュポッ、ジュポッ
再び妻の頭部が上下に動き始めた。ゆっくりとした上下運動だけど、一定のリズムで上下する妻の頭部。画面越しに見るよりも・・・そして普段、自分がしてもらう時に見るよりも、頭の動きが想像していたよりずっと上下に大きく動いている事を知る。
「あ、あ、奥さん・・・奥さん・・・」
その大きな上下運動に、堪らず喘ぐ野本さん。
(もう終わるな・・・)
僕がそう思った時、再び妻のフェラチオは中断を余儀なくされた。
またもや良いところで2階の音楽が途切れたのだ。
さっき音楽が途切れた時は、背後からの眺めだったから、突然妻の頭の動きが止まって身じろぎ一つしなくなったように見えたけれど、側面から見ている今はちょっと違った。
頭の上下は確かに止まっているのだが、よくみると頭はユラユラと左右に動いているのだ。
(完全にストップしている訳じゃなかったんだ)
男性へ口で奉仕する時に、長いインターバルを空けてしまうと、快感の波があっと言う間に去っていってしまう事は経験で知っているだろう。
何しろ、僕を含めて7人・・・野本さんを含めると8人の男性にフェラチオをしてきた妻だ。
2階で曲が再び始まった。
「うっ・・・お」
思わず野本さんが大きめの声で呻く。
――クプっ、くぷっ、クポッ
妻の頭が今日一番の速さで上下し始めた。さっきまでのジュポジュポと言う音とは質が変わって、クポックポッと言う小さめの音に変わる。
この音は、妻のバキュームがより強くなった事を示している。
曲が始まるや否や、突然の激しいフェラチオ。野本さんは思わず驚きと快感の呻き声を漏らしてしまったが、それも仕方があるまい。
しかし、僕には妻の意図がハッキリと解った。
(この曲の間に終わらせる気だな・・・)
2階で響いている曲は、だいたい1曲あたり5分程度。その都度曲間に静寂を挟むから、激しいフェラチオは中断せざるを得ない。
何の拍子に2階にいる僕に卑猥な口淫の音が聞こえてしまうか解らないからだ。
――ジュポッ・・クプっ、クップ、クップ、クップ・・・
強く吸い込んだままで、激しく頭を上下させる妻。
「おっ、おっ、おっ」
呻きながらも、何とかカメラで妻の口元を狙い続ける野本さん。
「奥さん・・・もう・・・」
野本さんが言った。
――クッポ、クッポ、クッポっ・・・
それを聞いて更に激しく頭を上下に振る妻。
「お、あ、で、出る・・出そう・・・」
ふっ、ふっ、ふっと言う吐息のような音とクポクポと言うフェラチオの響き。
そして、野本さんの最後の呻き・・・。
「出るよ・・・出るよ・・出るっ・・・んっ・・・うっ」
野本さんの腰が妻の口元を打ち上げるような動きを見せる。
上下運動を止めて、今度は右手を男根に沿えて激しくシゴく妻。
「ふっ、んっ・・・」
何度かに分けて小さく腰をビクつかせる野本さん。
やがて、少しずつスピードを落とす妻の右手の動き。
そうしている間にも、絶え間なく妻の口内に野本さんの精液が射出されていると思うと悔しいやら興奮するやら・・・何ともいえない感情だ。
だが、とにかく、僕は画面越しではなく、直に妻が僕以外の男の精液を口で受ける様を目撃した。
(あぁ、綾乃・・・綾乃・・・今、口の中は野本さんの精液でいっぱいだろう?)
今すぐにでも彼女を抱きしめたい衝動に駆られながら、しかし、それでは僕が覗いていた事がバレてしまうと思い直す僕。
結局僕は大きな興奮を抱えながら、ティッシュを口元にあてて、何かを吐き出す仕草をしている妻を後目に、静かに自室の戸を開けて中に戻った。
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