自分自身の性的嗜好が、美紅と付き合い始める前と全く変わってしまった事は自覚していた。
僕は美紅の事が大好きで大好きで・・だから、彼女の身体や卑猥な姿を僕以外の男に晒すなんて事は想像も出来なかった。
でも、最近ではそれすらも快感と興奮を得る道具にしてしまっている。
「ねぇ・・・この人、彼女いないのかな~」
美紅は無邪気にパソコンのモニターを指差しながら言った。
《いつもあなたの画像を見ながら1人でしています!もっともっと画像をください!》
美紅が指差した先にはそう書き込んである。
この書き込みにある「あなた」とは美紅の事だ。
僕等は、あの映画館と公衆トイレでの情事を境に「人に見られるかもしれないスリル」を知り、そしてネットと言う虚構の世界で「実際に見られる」事にすっかりハマっていた。
あれから、美紅の下着姿のみならず、ブラジャーも脱ぎ去った彼女の美しい胸や、もっと引いて撮影した彼女の全裸までもネット上に晒し、さらに昨日は僕と美紅の行為の最中の写真もネットにアップした。
書き込みは、美紅が正常位で僕に突かれ、背中を逸らすようにして巨乳を強調した画像にあてられたものだった。
「どうかな・・彼女がいても美紅みたいな魅力的な女の子の画像だったらオナニーしたくなっちゃうかもよ」
僕は彼女にそう言うけれど、その頃には美紅はもう「自分の裸で興奮している知らない誰か」に想いを馳せるようにボ~っとしているのだ。
僕が悪友の宏和に「相談がある」と呼び出されたのは、そんな「普通じゃない行為」も僕らの間では「普通」になりつつある頃だった。
「おまえら、この間ヤッてたろ」
僕の部屋へ来るなり、宏和はいきなりそう言った。
「え?この間・・って」
「知美も入れて、4人で飲んだ時だよ・・・床に寝転がってヤッてたろ」
「な、なんで・・・」
バレていないと思っていた。
あれは結構前の話だし、あれから宏和とは何度も顔を合わせているけれど、何も言われなかったし・・・。
「バレてないと思ったか?美紅ちゃんの悩ましい声とか聞こえてたっての!」
「ま、マジ!?と、知美ちゃんも聞いてたのか?」
「いや、あいつは結構飲んでたから、マジで爆睡してたよ」
美紅の喘ぎ声・・・と言ってもあの時は口に手を当てて我慢していたから、せいぜい聞こえたとしても吐息程度だろうけれど、それを宏和に聞かれていたと言うのには驚いた。
だけど、何故いまさらそれを改まって僕に言うのか・・・。
「あ、いや、それはいいんだけどよ」
「なんだよ・・・相談って」
「いや、あのよ・・・」
どうにも歯切れの悪い宏和。
何か言い難い事なのだろうか?
こっちの方が美紅との行為を聞かれていて恥ずかしいと言うのに、更に口ごもる宏和。
「あのよ、あ、そうだ!これ、やるよ」
宏和はそう言ってカバンの中をゴソゴソと探り出した。
僕は意味も解らず黙ってその様子を見守っていたけれど、宏和がカバンから出したものを見て固まった。
「お、おまっ・・・なんちゅう物持ってくるんだよ」
彼の手に握られていたのはピンク色のローター・・・いわゆる「大人のおもちゃ」と言うやつだった。
「知美にしか使ってないし、きちんと洗ってあるからよ、安心しろよ」
「いや、そう言う問題じゃ・・・」
どうやら、そのローターは宏和が知美ちゃんに使っていたものらしかった。
このローターが知美ちゃんの恥ずかしい場所に当たっていたと思うと、ちょっぴり興奮するけれど、今は宏和にこの行動の意味を問い質す方が先だ。
「いや、俺、もうちょっとエグいやつ買ったんだよ、だからそれいらないし、美紅ちゃんに試してみろよ」
「試してみろっておまえ・・・相談ってこれか?」
「あ、いや・・違うんだよ・・実は・・その・・・」
問い質すと途端に再び口ごもる宏和。
「ハッキリ言えよ」
「お、怒らないか?」
「怒るような事なのか?」
「もしかしたら・・・」
「じゃあ怒るかもしれないけど言ってみろよ」
「いや、そう言われると・・・」
「早くしないと、もう話聞かないぞ」
「あ、解った・・・解ったよ」
「・・・・・」
「一緒にヤラねえか?」
「はぁ!?」
「いや、だからよ・・エッチ、しようぜ・・・」
――ズザっ
あまりの事に、僕は反射的に宏和から離れた。
1年以上の付き合いになるが、彼が男性も女性もいける・・・バイセクシャルだなんて事を聞いた事はなかった。
まさか、学校でも一番仲の良い男友達に「エッチしようぜ」なんて誘われる日がくるとは・・・。
「あ、違っ・・おまえ、誤解してるだろ!」
「ご、ご、誤解も六階もあるかよ・・・お、お、俺は・・・ノーマルだからな、お、おまえの気持ちには、こ、応えられない・・ぞ」
「違うって!俺だってノーマルだっての!」
「だ、だっておまえ・・・」
「だから~、俺が知美とおまえが美紅ちゃんと・・・エッチしようぜって言ってんだよ」
「はぁ?もうしてるじゃん」
「そうじゃなくてよ、同じ部屋で・・4人で・・どうよって話だよ」
「・・・・・」
(な、何だ・・・そんな話か・・俺はまた、宏和がホモかと思ったよ、何だ・・・美紅と4人でエッチするだけか・・・良かった・・・ん?やっぱり良くない!)
「何言い出すんだよ!」
「まぁ、話だけ聞いてくれよ」
僕は宏和の言いだしたとんでもない提案を一蹴してやろうとしたけれど、彼があまりにも執拗に「話を聞いてくれ」と言うので、黙って話だけ聞いてやる事にした。
「俺と知美もよ~、付き合って1年以上経つんだよ」
「そうだな、俺と美紅が付き合いだしたのと殆ど同時期だしな」
「それでよ~、やっぱ・・マンネリ化するだろ?」
「マンネリ?」
宏和の話は簡単だった。
ようは付き合いだして1年以上経ち、知美ちゃんとのエッチがマンネリ化してきた。新しい趣向として、仲の良いカップルである僕と美紅を加えて4人で行為に及べば刺激的なんじゃないか・・お互いに。
そう言う話だった。
「ば、バカな事言うなよ・・・」
口ではそう言ったけれど、僕の言葉に力はなかった。
僕と美紅もまた、世間から見れば「普通じゃない」行為に手を染めている。
宏和と知美ちゃんとは形が違うけれど「普通じゃない」と言う点では同じ穴のムジナだ。
それに・・・心の隅で、宏和の提案したその行為が、僕と美紅にとっても刺激的なものになるであろうと思ってしまった事も否めない。
「でも、おまえが良くっても知美ちゃんが嫌がるだろ?」
「ん?知美には了解もらってあるぜ?」
「ま、マジかよ?」
「ああ、最初は嫌がったけどな・・・でも、俺に浮気されるくらいなら・・・って、それにあいつ、おまえの事気に入ってるみたいだしよ」
(知美ちゃんが僕を・・・いや、いや、俺には美紅が居るじゃないか!)
「頼むよ~、美紅ちゃんの事説得してくれよ~、俺、美紅ちゃんの事気に入ってんだよ~」
「ば、バカ言うな、美紅は俺のもんだ、何でおまえに・・・」
「別に美紅ちゃんとヤラせろって言ってる訳じゃないんだって、たださ~、あの巨乳を眼前で・・・な?解るだろ?」
解る。
美紅のムネは魅力的だ。
だけど、実は宏和は画像で、その胸を見た事がある。
(まぁ、ややこしいから、それは黙っておくか・・・)
以前までの僕なら、宏和を怒鳴りつけて一蹴していただろう。
だけど今の僕にはそれは出来なかった。
この頃には、もうそれほどに性的嗜好が「普通」じゃなくなっていたのだ。
結局僕は、宏和には明白な返答をしないままで、彼の置いて行ったローターの前で黙り込んでいた。
※※※
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
「美紅・・・美紅・・・」
宏和の話から数日後、僕と美紅はいつものように彼女の部屋で行為に及んでいた。
彼女にはまだ、宏和からの提案は聞かせていない。
もしかしたら知美ちゃんから聞いているかもしれないけれど、美紅からその話をしてくる事はなかった。
――チュッ・・チュっ
僕は僕の大好きな美紅のムネに顔を埋めて、先端で立ち上がっているピンク色の蕾に時折舌を這わせながら考えていた。
(美紅に・・・伝えてみようか・・・)
普通なら宏和の提案なんかは論外だ。
例え、宏和が美紅に触れる訳でなくとも、友人に大切な美紅のすべてを見られてしまうのだから、そんな事は出来ない。
だけど、ネット上に美紅の恥ずかしい画像を晒して、返ってくる反応を見るのにも大分慣れてきて受ける刺激も減ってきているのも事実だ。
(言うだけ・・言うだけ言ってみようか?)
「はぁはぁ・・あ、き、木下・・・くん、な、なんか私に隠してること・・ない?」
僕の思考を先回りしたかのように、美紅が紅潮した頬のままで突然言った。
「な、なに・・が?」
僕は一瞬ドキリとする。
やはり美紅は知美ちゃんから、宏和のバカげた提案の話を聞いていたのか。
「知美ちゃんに・・・はぁ、あ・・き、聞いたよ?」
(やっぱり・・・)
「そ、そうか・・で、美紅はどう思う?」
「どうって・・・ちょっと興味あるかな・・」
美紅は引っ込み思案だけど、性的好奇心は人一倍だ。
その返答はある程度予想していた面もあるけれど、こうして実際にハッキリ聞くと多少なりともショックも受ける・・・これで友人カップルと4人でのプレイに障害はなくなったのだから。
「・・・やってみる?」
「どうしよっかな・・・何か気持ち良さそうだし・・・やってみようかな・・・」
宏和や知美ちゃんに見られながらエッチすると気持ち良さそう・・・そう言う美紅。
「解った、じゃあ準備しておくよ」
「あ、今日は無理なんだ?」
「き、今日!?今から?」
「うん・・・ダメ?」
「それはちょっと・・・」
美紅がこんなに思い切りの良い性格だとは思わなかった。
僕ですらその変態的行為に躊躇いがあると言うのに・・・。
「私、別に知美ちゃんのだったら気になんないよ?友達だし・・」
「は?と、知美ちゃんのだったらって・・・いやいや、違うって見るだけだよ?」
知美ちゃんの彼氏なら気にならないって、美紅はどうやら互いのエッチを見せ合うだけでなく、宏和ともエッチすると思っているようだ。
(いや、待てよ?そう思っててもOKと言う事は、宏和とエッチしても良いって事か?)
「見るだけ?なんで?せっかくだから試してみようよ~」
「・・・っ!な、何言って・・・美紅はそれでいいのかよ!?」
「どうして~、試してみないと解らないじゃん・・・すっごく気持ち良くて、私、ハマっちゃうかもよ~?」
「は、ハマるって美紅・・・本気で言ってるのか?」
「うふふ・・大丈夫だよ、ハマるかもしれないけど、木下君とエッチする方が気持ち良いに決まってるじゃない・・ね?」
(・・・ね?って・・・美紅・・本気か?本気で宏和と・・・試したいのか?)
「わ、解った・・・そ、それなら、俺だって試しちゃうぞ・・知美ちゃん」
「やだ、木下君・・・いくら元々知美ちゃんが使ってたからって、トモミちゃんなんて名前つけてたの~!?」
「な、名前?使ってた?」
「そうだよ~、宏和君が買ってきて、知美ちゃんに何回も使ってたみたいだよ~?アレ」
「アレ?」
「貰ったんでしょ?宏和君から、アレ・・・」
(アレ・・・アレ・・・アレ?・・・あ、アレ!)
「あ、ああ、おもちゃ!大人のおもちゃね!ピンク色のやつ!」
「そうだよ?なんだと思ってたの?」
「あ、いや、何でも・・・ああ、おもちゃ・・おもちゃね・・あはははは」
「変な木下君・・・」
美紅は、知美ちゃんから宏和が僕にピンクローターを渡したと聞いたと言う。
そんな話を友達同士でするのもどうかと思うが、紛らわしい話だ・・・。
「あ、ああ、今度試してみる?自分の部屋に置いてきちゃったから・・今度ね」
「うん・・いつでも良いよ、忘れなかったら・・・ね」
それにしても、自分自身に驚きだ。
僕は最後の一瞬、宏和に美紅が抱かれるのを容認していた・・・僕の目の前で。
こんなに美紅が大好きなのに、大切なのに・・・僕以外の男に抱かれる美紅の姿を見てみたいと言う気持ちにも少しなっていた。
僕は自分自身の心境の変化に驚きつつ、次に美紅の部屋に来るときには、宏和に貰ったピンクローターを持って来ようと決めていた。
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