――ピンポーン
僕は兄の家のチャイムを押した。
今日は日曜日…兄の奥さんである希美さんとパソコンの設定をし直す約束をした日だ。
「よう、悪いな真人」
「あ、いや、どうせ家に居ても暇だから」
玄関に僕を出迎えてくれたのは兄だった。
僕は兄の顔を直視する事が出来ないままで、彼に返答した。
別に兄の事が嫌いな訳ではないし、むしろ歳の離れた兄とはケンカをしたような記憶も殆どなくて、随分と可愛がってもらっていると思う。
そんな兄のパソコンから、今日、彼の妻である希美さんの猥褻な画像を盗み出そうとしているのだ。
「おじゃまします」
僕はポケットの中のフラッシュメモリを握りしめながら、そう言って兄の自宅へ上がり込んだ。
「真人君、あの後もメモ探したんだけど見つからなかったの、どうにかなりそう?」
「うん、僕もあの後調べたんだけど、どうやら無線LANの場合、ルータにパスワードなんかが書いてあるらしいんだ」
「る、るーた?」
あれから…つまり希美さんにフェラチオしてもらって以降、僕と希美さんは初めて顔を合わせるが、彼女はいつもと少しも変わらぬ明るい笑顔で僕を迎えてくれた。
僕も出来るだけいつも通りに振る舞おうと努力したけれど、服の上から希美さんの胸の膨らみを見ては、あの日のキレイな彼女の乳房と柔らかな感触を思い出し、可愛らしい口元を見ては、エロティックに男根を舐める様を思い起こしてしまう。
「とにかく設定するから、パソコンの部屋に入っても良い?」
「あ、ええ、お願いね」
僕はそう言うなり、2階のあの部屋へ向かった。
またポケットの中のフラッシュメモリを握りしめながら・・・。
※※※
――カチカチっ
「これで大丈夫だと思うんだけど…よしっ」
モニターに検索エンジンサイトがキレイに映し出された。
「わあっ、真人君スゴいね~、直っちゃった」
「直るって…別に壊れてた訳じゃないから、ただパスワードなんかを入力し直しただけだよ」
「よく解んないけど、やっぱりスゴいよ。どうもありがとう」
希美さんは、パソコンの設定をする僕の傍にずっと居た。
何をするでもなく、先日来たときより少し片付いた部屋の中で、椅子に座って黙って僕の作業を見守っていた。
(み、見張られてるのかな…)
ただ単に、パソコンの設定に興味があっただけかもしれないけれど、彼女は僕があの画像を再び見ないように見張っているのかもしれないと思ったのだ。
「これでネットには繋がったよ、それで…あの画像だけど、どうしようか?」
僕は小さな声で希美さんへ言った。
階下では兄がテレビを見ながら大笑いしている声が聞こえたから、あんまり大きな声を出すと彼に聞こえてしまうかもしれないと思った。
「うん・・・消してくれるかな」
同じように小さな声で彼女が言う。
「解ったけど・・・」
「けど?」
「その為には、チラッとサムネイルを見なくちゃならないんだけど良いかな?」
「さむねいる?」
「あ、えっと・・・」
僕はサムネイルが何なのか簡単に希美さんに教えた。
「し、仕方ないよね、ちっちゃな画像のことでしょ?そんなにハッキリ見えないわよね」
「うん、何となく女の人の裸かな~程度には見えちゃうと思うけど、そんなにハッキリとは見えないよ」
「・・・・・」
僕がそう言うと、希美さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
どうやら「裸」だと判別されるだけでも恥ずかしいらしい。
「でも、そうしないと消せないんでしょ?」
「いや、サムネイルを見なくても消せるには消せるけど、間違って大切な写真も消しちゃう可能性があるんだよ・・・それでも良ければ」
「それも困るなぁ」
「じゃあ、やっぱりサムネイルで確認しながら消すしか・・・」
「解った、我慢するよ。でも、その…なんだっけ…さむねいる?…それ以外は見ないでね?」
「うん、約束するよ」
僕はハッキリとそう約束した。
別に嘘をついている訳ではない。
ただ「ここでは」見ないだけの話で、フラッシュメモリに画像を移しかえた後、自宅でゆっくりと見るつもりだけど…。
「じゃあ、作業の途中で兄貴が入ってきたら困るから…」
「うん、私、下にいるから終わったら声かけてね」
「はい」
彼女はそう言うと階下へ降りて行った。
やがて、パタパタと言うスリッパの音が聞こえなくなると、僕は準備してきたフラッシュメモリをポケットから出してUSB端子に大急ぎで差し込んだ。
「えっと…どこだっけな」
それから、目的のフォルダを探す。
「あった!」
この間はそんな余裕もなくてじっくり観察できなかったけど、よく見ると結構な枚数だ。
これが全部、希美さんの「恥ずかしい姿の画像」だとすると…帰宅してからが楽しみだ。
――カチッ
僕は、そのフォルダに入っていた画像を丸ごと選択して、フラッシュメモリにドラッグした。
――転送中…
枚数が多いので、少し時間がかかりそうだ。
まして「悪い事をしている」という自覚はあったから、尚更その時間が長く感じる。
――カチャっ
その時、不意に部屋の戸が開いた。
「・・・っ!」
僕は驚いて部屋の入り口を見る。
まだ、モニター上ではフラッシュメモリへの画像の転送が続いていて、フォルダが開きっぱなしだったから、希美さんの裸が写ったサムネイルが丸出しのままだ。
「あ、兄貴・・・」
「よう、ネットにつながったんだってな、サンキューな」
「あ、いや・・・」
入り口に立つ兄…その後ろに隠れるように立っている希美さん…何故だか彼女は顔を真っ赤にして俯いている。
「んで?画像の消去は終ったか?」
「えっ!?」
一瞬、ドキリと大きく心臓が鼓動した。
「画像だよ、画像、消去中なんだろ?」
「な、なんで・・・」
(なんでそれを・・・)
今日、僕がこの画像を消去しにくると言う事は希美さんしか知らないはずなのに、兄がそれを知っている。
理由は簡単だ、希美さんが兄にその事を話したとしか思えない。
「あっ、おまえ、ちゃっかり持って帰ろうとしてんじゃんかよ」
パソコンに刺さるフラッシュメモリを兄が見つけてそう言った。
「え?」
驚いて兄の背後から希美さんが顔を出す。
最悪だ…。
希美さんが兄に先日の事を話したのは間違いないだろう。
だけどどこまで話したのだろうか?
画像を見つけた所まで?それとも、それを見ながら僕がオナニーしてた所?
(まさかフェラチオした事までは話してないだろうな・・・)
「ご、ごめん…その・・・」
「まったく、おまえもそう言う歳になったか」
「・・・・・」
僕はここに来て、小さな違和感を感じた。
(怒ってない?)
兄が全く怒るような素振りを見せないのだ。
普通なら夫婦の秘め事を記録した画像を弟が勝手に外に持ち出そうとすれば怒るだろう。
それなのに、呆れた様子は見せても怒っている様子は微塵もない。
「あの・・・ごめん」
それでも僕は兄に謝り続けた。
「う~ん、持ち出すのはダメだな、とにかくそのフラッシュメモリは没収だ」
「うん・・・」
「それと、画像の消去はするな」
「え?でも・・・」
僕は相変わらず兄の後ろで赤い顔をしながら立っている希美さんを見た。
「希美には、誰にも見せない事を条件に許可はもらった。だから消すな」
「う、うん・・・わかった」
どうやら希美さんと兄の間で、僕の知らない間に画像は保存しても良い事になっていたようだ。
(だったら、何でさっきは「消して」って言ったのかな!?)
ついさっき、画像を消すか?と訊ねた僕に彼女は「消して欲しい」と返答した。
そのツジツマが合わない。
「それでな・・・おまえ、今日は暇なんだろ?」
「うん・・・別に何の用もないけど」
「だったら、画像の事は許してやるから、ちょっと協力しろ」
「いいけど、何を?」
「写真だ」
「写真?」
「ああ、カメラマン役をやってくれ」
「カメラマン?」
「そうだ、おまえ、その画像見たんだろ?」
「うん少し・・・ごめん」
「謝らなくてもいい、で、どうだった?」
「どうって・・・」
「感想だよ、感想」
「その…希美さんがキレイだな…って」
「他には?」
「あの…い、イヤらしいな…って」
「興奮したか?」
「そりゃあ・・・したよ」
「もっと見たいか?」
「・・・・・」
「希美の裸を見たいかって聞いてるんだ」
「そんな事・・・」
「見たくないのか?」
「み、見たいけど・・・」
「じゃあ、カメラマンをやれ、な?」
「カメラマンって何なのさ」
僕は兄の言わんとしている事を理解できずにそう訊ねた。
「いや、おまえだから言うんだぞ?誰にも言うなよ?・・・俺さ、希美のそう言う画像撮影するのにハマっちゃってさ」
「・・・・・」
「でも、画像見たら解るだろうけど、やりながら撮影するとだいたい同じような画像になっちまうんだよ」
「うん・・・」
「だから、俺と希美はやる事に集中するから、写真はおまえに撮って欲しいんだよ、カメラマンってのはそう言う意味だ」
「・・・は?え?」
あまりの事に驚きを隠せない僕。
ふと何気なく希美さんへ視線を向けると、もっと赤い顔をしてお辞儀になりそうなくらい俯いている。
「で、でも、そんな事・・・希美さんが・・・」
「希美のことは説得済みだ、な?」
「せ、説得って・・・健人がどうしてもって言うから仕方なく・・・だよ」
「希美も、知らない他人に撮られるより、おまえに撮られる方が良いだろうし、それに1回その画像見られているから、今更隠しても仕方ないからな」
希美さんの許しも得て、堂々と兄夫婦の秘め事を写真に撮る事が出来る。
しかも、その様子を画像に収めると言う事は、その場面に立ち会うと言う事だ…それも、ものすごく近くで。
そんな事が当たり前だとは勿論思わない。
だけど、この家に入って希美さんを一目見た時から、その裸身を想像して悶々としていた僕に、それを断る理由などなかったのだ。
※※※
「画像のことしか言ってないから…」
兄がシャワーをしている間に、希美さんは手早く僕に事の経緯を説明してくれた。
先日、僕が例の画像を発見した日、僕が帰った後でどうにも恥ずかしくなって、彼女は兄に画像のことを言ってしまったのだと言う。
今すぐに消して欲しいと願う彼女…だけど兄から返ってきたのは、彼女の美しい身体や夫婦の行為を記録する事で興奮するのだと言う、性癖のカミングアウト…。
高校時代から一緒にいると言うのに、彼女は兄のそんな性癖を全く知らなかったから、本当に驚いたようだ。
兄にしても高校時代からそうした性癖だった訳でもないだろうし、彼女が気が付かなかったのは仕方のない事だと思うが、希美さんにしてみれば、やはりショックだったらしい。
撮影されるのは絶対にイヤだと突っぱねる事も考えた。
だけど、性の不一致は時にそのまま夫婦の溝になり兼ねない。
そうも思った。
だから、他人に・・・誰にも見せないのであれば、結局は撮られていないのと同じ…そう思って夫婦の行為を撮影する事までは許したのだと言う。
妻の許しを得て堂々と撮影して保存できる事になった兄は、その晩にさっそく喜んで希美さんを抱きながらシャッターを押し続けた。
だけど、妻の許しを得た事で背徳的な興奮が失われた為だろうか、その行為は思ったよりも彼を興奮させなかったようだ。
それを兄は、画像がいつも同じ構図になるからだと考えたようだった。
そして僕に白羽の矢が立ったと言う訳だ。
最初、希美さんはそれこそ烈火のごとく拒否したのだと言う。
当然だろう。
なぜ、夫の弟の目の前で夫婦の行為に及ばなければならないのだと誰でも思う。
「どうせあの画像見られたんだろう?じゃあいいじゃないか、今更」
そう言って迫る兄に希美さんは尚も拒否した。
「じゃあ、プロのカメラマンでも雇うか?そう言う写真を撮ってくれるカメラマンも探せばいるんじゃないか?」
ところが兄はそれを諦めるどころか、ついにはそう言いだした。
(どうあっても、恥ずかしい写真を撮りたいらしい)
そう思った希美さんは、全く見ず知らずのカメラマンの前で、そんな恥ずかしい行為をするくらいなら、兄が言ったように、一度画像を見られている僕に撮られる方がマシだ…。
そう結論したのだと僕に説明した。
「おまちどうさん」
希美さんが一通り僕に説明してくれた時、兄がシャワーから出てきた。
酒を飲んでいる訳でもないのに、思いきり上機嫌なのは、これから起こる事への期待からだろう。
「さっ、寝室へ行こうか」
兄がそう言ってさっさと2階へ上がろうとする。
「希美、いくぞ」
まだ躊躇いの残る彼女を兄がそう急かす。
やがてノロノロと階段を昇り始めた彼女の後ろを、僕も同じようにノロノロと階段を昇って行った。
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