― 第1章 性の目覚め ―…女の子らしいって何?…
「なぁ、拓也・・・」
「なに~」
いつものように雄大の部屋でマンガなど読みながらダラダラとしていると、彼が突然僕に話しかけてきた。
マンガを読んでいる間はずっと無言だったけど、これでも僕・・・岩上 拓也いわがみ たくやと上原 雄大うえはら ゆうだいは親友だ。
今更、彼のどこが好きで親友なのかと訊ねられても困る。
僕と雄大は、雄大がここへ引っ越してきた3歳の時から友人だ。
同じ年齢と言う事もあって親同士も仲が良く、小学校、中学校と一緒にいるのが当たり前だったから、親友なのは間違いないけれど、今更「彼のどこが好きか」と聞かれても当たり前すぎて解らないのだ。
「最近よ~、明日香ちゃん・・・女らしくなってきたっつ~か・・・可愛くなってね?」
雄大は、中学3年まで柔道部に入っていて、身体もゴツく、ヒョロリとした体形の僕と一緒にいる事が多いものだから特にそのゴツさは目だった。
加えて、この粗暴な感じの話口調だから誤解を招くかもしれないが、決して悪い人間ではない。
「そうかな・・・別に何とも思わないけど・・・」
「いや、絶対変わったって。おまえ一緒に暮らしてるのに気が付かねぇのかよ」
明日香あすかと言うのは僕の妹で、今年で中学2年になった。
雄大は明日香が女の子らしくなったと言うが、僕は特にそうは思わなかった。
元々ハキハキとしてキッパリと物を言う妹だから尚更「女の子らしさ」からかけ離れて見えているのかもしれない。
「そうかな~・・・そう言う事は本人に言ってやれば良いじゃん、喜ぶよ・・きっと」
僕と雄大、明日香、それに雄大の妹の真由まゆちゃんは、小さい頃から4人一緒に育った。
明日香と真由ちゃんも同じ中学2年だ。
つまり僕等は僕らが3歳、妹たちが1歳の時からずっと隣同士で暮らしていて、4人で一緒にいるのが当たり前の仲なのだ。
高校生にもなって兄妹と一緒に行動すると言うのも気恥ずかしいが、互いに同じ年の兄妹がいる事で僕等はこの年齢になっても仲良く4人一緒にいる事が多かった。
「んな事、本人に言える訳ねぇだろ~」
「なんでさ?褒め言葉だもん、あいつ無条件で喜ぶと思うけどな」
「まだ話に続きがあるんだって・・・」
「続き・・・?」
「明日香ちゃん・・・彼氏とか出来たんじゃね?」
雄大は明日香が女の子らしくなったのは、彼女に彼氏が出来たからだろうと言うのだ。
「そんな話聞いた事ないけど?」
「わざわざ中2にもなって、兄貴に彼氏が出来たなんて報告するかよ」
「まぁ・・・そうだね・・・」
正直言って、妹の明日香に彼氏が出来ようが出来まいが僕にはどうでも良い事だから、そう適当に返答をした。
「く~っ、おまえそれ聞いて何とも思わねぇのかよ」
「何とも・・・って?」
「だって彼氏だぜ?・・・あの明るくて素直な明日香ちゃんが、俺たちの知らねぇ男とエロい事してるかもしんないんだぜ?」
「そんな、まさか・・・あいつ中学2年だよ?そんな事してないさ・・・」
「いやいやいや・・・おまえ甘いって。今時の中学生なんて進んでるぜ?俺の後輩にも先輩の俺を差し置いて、さっさと童貞卒業しちまったやつだっていくらでもいるんだからよ」
「そんな話聞いてないけどな・・・」
「バカか!?おまえ?どこの世界に兄貴に彼氏とエッチな事しましたって報告する妹が居るんだよ・・・」
「まぁ、確かに・・・そうだけど・・・」
僕にはどうしても妹の明日香がそんな事をしているとは信じられなかった。
その光景を想像する事すら出来ない。
それ程に僕の中の明日香は子供だったのだ。
「考えてもみろよ・・・明日香ちゃんと一番長く一緒にいる俺たちが童貞だっていうのによ、どこの誰かも解んねぇやつが、明日香ちゃんの身体を好きにしてると思うと、なんか腹立たねぇか?」
「別に・・・何とも・・・」
僕は雄大にそう答えたが、実の所その気持ちは少しだけ解るような気がしていた。
理由は簡単だ。
僕は雄大の妹の真由ちゃんの事が好きだった。
もうずっと・・・小学生の時からずっとずっと真由ちゃんの事が好きだったから、今の4人で一緒に居る時間が楽しくて堪らない。
それがもし、真由ちゃんに彼氏が出来て、どこの誰とも知らない男に好き勝手にされている・・・そう思うと胸が張り裂けそうだ。
「雄大ってさ・・・明日香の事好きだったのか?」
僕は自分と真由ちゃんの事を重ね合わせてそう訊ねてみた。
「好きとか嫌いとか・・・そう言うのは解んねぇけどよ。お前以外の男で明日香ちゃんを一番良く知ってるのは俺なんだよ。なのによ~」
なんだか解らないけど、それが「好き」って事なんじゃないのかなと思う。
だけどそれを言うと雄大はきっと怒るから、僕は黙っている事にした。
「どっかの知らねぇ奴に明日香ちゃんを持っていかれるくらいなら、俺のものにしたいとは思うけどよ~」
雄大はポツリと言う。
「俺のものって・・・」
「だから、例えばだよ、例えば・・・」
「そんな事、本人に訊くしかないだろ?俺だって知らないんだからさ」
「そうだな・・・おまえ、そのうち訊いてみてくれよ」
「なんて?」
「彼氏出来ただろうって」
「そ、そんな直球で?」
「他にどう訊くんだよ、それしかないだろ?」
「まぁ、機会があったら訊いとくよ」
僕は最終的にそうお茶を濁したが、その時はそんな機会が来るとは思っていなかった。
「こんちは~」
そんな話をしていると当の明日香が雄大の部屋に入ってきた。
「ああ、おっす・・・」
「あれ?真由ちゃんは?一緒に学校から帰ってきたんじゃないの?」
僕は明日香が1人で雄大の部屋に入ってきたのを見て、すかさずそう訊ねた。
「ん?下から何か飲み物持ってきてくれるってよ?」
「お、おまえ・・・手伝いもせずに1人で上がってきたのか・・・」
「だって真由が1人で大丈夫だって言うから」
これだ・・・真由ちゃんはきっと僕達の分も含めて4人分の飲み物を持ってきてくれるだろう。
確かに4人分の飲み物くらい1人で持って2階へ上がってこられるに違いない。
でも普通、女の子だったら「私も手伝うよ」ってならないか!?
これのどこら辺が「女の子らしくなった」と言うのか。
僕はチラリと雄大の方へ視線を送ったが、その視線が雄大と合う事はなかった。
※※※
「兄貴ぃ~先に風呂入るよ~」
「ああ・・・」
明日香はそう言うと自分の部屋に一旦戻って着替えを手にして浴室へ消えて行った。
雄大の家も僕の家も、両親とも共働きだから、僕と明日香はギリギリ夕食の時間までに戻れば良い。
両親は僕と明日香が2人で雄大の部屋に入り浸っているのを知っているし、何と言っても家は隣だから何の心配もしていないようだった。
僕は明日香の後でお風呂へ入ろうと思って、彼女が浴室から出て来るのを自室で待っていた。
(明日香に彼氏ね・・・)
何もする事がないと、人間余計な事を考えるものだ。
僕は雄大がさっき言っていた「明日香に彼氏が出来たんじゃないか」と言う言葉を思い出していた。
普通彼氏なんか出来たら、少しでも一緒に居たいだろう。
それが今日も、学校が終わるなり雄大の部屋に直行してきた。
僕らはあの後も4人で真由ちゃんが用意してくれた飲み物を口にしながら、アホな事を言い合ったりマンガを読んだりゲームをしたりしていたのだ。
それが明日香に彼氏が居ないと言う何よりの証拠じゃないかと思う。
「兄貴ぃ~・・・次お風呂入っちゃえば~」
そんな無駄な事を考えているうちに階下からは明日香の声が聞こえた。
「ああ、今行く」
僕はそう答えて、もう準備してあった替えの下着を持って部屋を出た。
浴室へ行く前に居間の前を通ると、明日香が冷蔵庫の扉も閉めずにペットボトルに口をつけてゴクゴクと水を飲んでいるのが見えた。
(ほら見ろよ・・・雄大・・・あれのドコが女の子らしいって?)
僕は一瞬そう思って、居間の前を通り過ぎようとして動きを止めた。
明日香は無防備極まりないから、風呂上りはいつもTシャツにショーツ一枚でウロウロと歩き回る。
今だってピンク色のショーツが丸見えだし、Tシャツ越しにブラジャーもしていない胸の形が露わになっている。
(少し・・・胸が大きくなったかな?)
僕が足を止めたのはそのTシャツ越しの明日香の胸が、少し見ない間に大きくなったような気がしたからだった。
(まぁ、でも真由ちゃんほどじゃないよな・・・)
雄大の妹真由ちゃん・・・あれこそ「女の子らしい」と言うものだ。
おまけに今目の前で見ている明日香の胸より一回りも二回りも大きな胸・・・それが中学2年生にしては大きくて、女性らしさを象徴していると思う。
可愛い顔をしているのだが、ド近眼が災いしてメガネを手放せないのがすごく勿体ないと日頃から思っていた。
ちなみに明日香も視力は相当悪い。
だが彼女は普段コンタクトを使っている。
(真由ちゃんもコンタクトにすれば良いのにな・・・)
そんな事を思いながら明日香のあられもない姿を見ていると、急に彼女が振り返った。
「兄貴、風呂空いてるよ?・・・すぐに入ると思ってお風呂のフタもしてないから、さっさと入っといでよ」
「ん、ああ・・・今行くよ・・・」
(多少胸が成長したからって、そんなの単なる第二次性徴じゃないか・・・)
僕はそう思いながら浴室へ向かった。
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