翌日・・・妻と子供が寝静まると、僕は彼女から受け取った録音機器から音声データを抽出して、自分の携帯音楽プレイヤーに移した。
本当は妻が帰宅した後、すぐにでも音声を確認したかった。
妻の様子から、彼女が岡田君に抱かれて帰ってきたのは疑いようがなかったし、上手くいけば、その時の・・・つまり、岡田君と妻がセックスしている最中の音声も聞けるかもしれないのだ。
しかし、帰宅した妻は、僕が思った以上に落ち込んでいた。
いくら、僕の願いを叶えるためとは言え、会社の若い男の子と関係を持った後だし、妻にとっては野本さんに続き、結婚後2人目の僕以外の男性である。
良き妻、良き母で居たいと願う綾乃にとっては、結婚しているのに、夫以外の男2人に身体を差し出した事は落ち込むべきことだったのかもしれない。
結局僕は、落ち込む妻の心のケアのために一晩妻を抱きしめて過ごしたから、音声を聞く事ができないまま翌日になってしまったのだった。
※※※
音声データは4時間分もあった。
どうやら、お酒の席に付いて、そう経たないうちにスイッチをONにしたようだ。
最初のうちはハンドバッグの口も閉めてあったようで、何かモゴモゴとした音声に、時折聞こえる笑い声・・・その程度だ。
様子が変わったのは、1時間半を経過したあたりだった。急に静かになって、ゴソゴソと言う音しか聞こえなくなる。それが30分近くも続いて、上手く録音できなかったのかと諦めの気持ちが湧いてきた時、急にクリアな音声が飛びこんできた。
「今時のホテルって、オシャレなんですね。こう、何ていうか、こう言うホテルって、もっとケバケバしたイメージでしたよ、僕」
男の声だ。
「あんまりこう言う所・・来た事ないから解らないな」
それから妻の声。
「僕だって、そんな頻繁に来てる訳じゃないですよ~」
どうやら、妻は僕に言われた通り、ホテルに着くなりハンドバッグの口を開けたようだ。広めの会議室でも360度の発言をきちんと拾ってくれる録音機器は、その小ささからは想像できないくらい、2人の声をクリアに拾ってくれている。
――チュッ・・チュっ
少しの無言の後で、2人がキスする音が聞こえた。
まだハンドバッグを肩にかけたままの妻に、待ちきれないように近寄って唇を重ねる岡田君・・・音しか聞こえないけど、僕はそんな情景を想像して興奮する。
「いいんですよね?」
岡田君が小さな声で妻にそう囁く。
妻からの返答は聞こえない。
「綾乃さん、お風呂入ります?僕はシャワーだけでも良いんですけど・・・」
「あ、私・・・やる」
「いいですよ、僕が準備しますから、そこの冷蔵庫に飲み物とか入ってないんですかね?何か飲んでてくださよ」
「でも・・・」
「綾乃さん、あんまり飲んでなかったでしょ、さっきのお店で」
「そんな事ないよ」
「嘘~、綾乃さん、酒豪じゃないですか~、それにしては全然でしたよ」
「そう・・かな」
察するに、お酒の後の事を想像して緊張していたに違いない。それが妻の飲酒量を減らしたのだろう。緊張したら飲酒量が増えそうなものだけど、彼女は緊張すると飲酒量だけじゃなく、食事の量も減ってしまう。それは僕が一番良く知っている。
「それとも、一緒にお風呂なんて、入っちゃったりします?」
「えぇぇっ!?」
「そんなに驚かなくても良いじゃないですか~、イヤですか?」
「・・・だって、恥ずかしいもの」
「そうですか?じゃあ、僕1人で先にシャワーしてきて良いですかね?」
「・・・うん」
「じゃ、お先します」
この岡田君、なかなか遊び慣れているような気がしてきたがどうなんだろうか。
「ふぅ~っ」
一つ妻の大きな溜息が聞こえた。僕が自宅でビールを片手に大きな溜息をついていた頃、彼女はホテルで溜息をついてたんだなと思うと何だかおかしな気持ちになる。
妻の溜息の後、時折、ガサゴソとした音が聞こえる以外、しばらく何も聞こえなくなる。
それから、15分くらいして、岡田君がシャワーを終えて、妻へ「どうぞ」と言った。それを最後にまた、しばらく話声は途絶える。
今度は途絶える時間が結構長い・・・きっと妻はシャワーを浴びながら気持ちの整理をしていたに違いない。それに時間を要したのだろう。
やっと妻が出てきて、2人がベッドに入ったのは、さらに少し無音時間が過ぎた後だった。
※※※
(結構、きちんと聞こえるな)
初めて身体の関係を結ぼうとする2人の会話。
エロティックな会話は皆無だけど、その代りに初々しくて生々しい。
当然2人とも良い大人だから、異性経験はそれなりに積んでいる。それでも初めてセックスをする2人はこんなにも初々しいもんなんだなと言うのが最初の感想だった。
「バスタオル・・・外しますよ」
「・・・・・電気・・明るくない?」
「もう少し暗くしますか?」
「・・・・・」
「・・・これで、どうですか?」
手元に電灯のスイッチがあるらしく、すぐに対応する岡田君。
「うん・・・」
その灯りで良いと言う妻の声。普段は殆ど真っ暗な中セックスする彼女、この時の明るさはどの程度だったのだろうか。
「恥ずかしい・・・」
ガサゴソとした音の後で、妻の小さな小さな声。
バスタオルを外されて、彼の目の前に裸身が晒されたのだろう。
「キレイですよ・・綾乃さん」
「そんな・・・もうおばさんだよ」
「そんな事ないですよ、僕、ずっと・・・入社した時から、綾乃さんとこうなりたかった」
――チュッ・・チュっ
嘘か本当か解らないが、そんなセリフを吐いて雰囲気を作る彼。そのすぐ後で、どこに吸い付いたのか、チュウチュウと言う音が続く。
「はっ」
勢いの良い吐息が聞こえた。
聞きながら気が付いたのだが、2人の話声や、ベッドの軋む音なんかは判別できるけど、どうやら小さな吐息までは録音されていないみたいだ。
――ゴソゴソ・・・ギシっ
そんな音が、何をしているか全くわからないけど、確実にそこで男女が絡み合っているであろう雰囲気を醸し出す。
「あっ・・・」
ハッキリと妻の声が聞こえた。
どこをどうされているのか・・・。
「あっ・・んっ」
途切れ途切れだった喘ぎ声が、段々と続けざまに聞こえるようになってくる。
「あっ・・そんなところっ・・・」
――ジュルっ・・ピチャっ
「あぁぁっ・・・ぁ」
派手な音がした。見えなくても解る。岡田君が妻の秘部に顔を埋めて舐め始めたのだ。一段、妻の喘ぎ声が激しくなった。
――ジュルっ
「はぁ・・・ぁ」
時折聞こえる、秘部を舐める音と、妻の嬉声。
延々とそれが続いて、やがて妻の声は段々と糸を引くようなイヤらしいものに変わっていった。
≪
前へ /
次へ ≫
Information