2階の寝室へ上がると、僕は大袈裟に「ガチャリ」と音を立てて寝室の扉を閉めた。そして即座に再び扉を小さく開けて、その隙間に本を挟み扉が閉まってしまわないように細工した。
綾乃との約束だから、2人の行為を覗く事はしないでおこうと思っていた。万一、覗いているのがバレたら決定的に彼女を怒らせるし、2度と野本さんを交えた「寝取られ」の機会も楽しめなくなってしまうからだ。
しかし、寝室の扉を一枚開けておくだけで、そこは綾乃が野本さんにフェラチオしているのと同じ空間だ。
1階と2階ではあっても、そう広い家でもないし、おそらく2人の会話も小声でなければ聞こえると思う。それに卑猥な音も小さな音までは聞こえないかもしれないが、コトが激しさを増してきた時の音はハッキリと確実に聞き取れると思う。
今日の僕はこれで十分満足できそうだった。
僕は開いた扉の隙間に顔を寄せ、物音一つも聞き逃すまいといった態勢で座った。
そのまま眼を瞑って、階下の物音に耳を澄ませる。
「俺、奥さんに嫌われてると思った」
野本さんが言った。
「なんでですか?」
「だって、前は時々奥さんと3人で呑んでたのに、全然誘われなくなっちゃったからさ」
「それは・・・孝介から何か聞いてます?」
「孝介?何にも?何かあったの?」
嘘だ。
僕は事の顛末をすべて野本さんには話してあった。
つまり、野本さんと綾乃が濃厚なセックスをしたのを画面を通して見届けた後で、どうにも我慢できなくなった僕が、先走って綾乃に3Pを提案して怒らせた・・・。
当分、これまでみたいな関係は無理だと思う・・・そう伝えてあったのだ。
綾乃にしてみれば、今まさに口を使って奉仕しようとしている相手と夫との3人でセックスをしようと持ちかけられて怒った・・・なんて事は野本さんに言い難い。
だから探るように「僕から何か聞いているんじゃないか」と訊ねたのだろう。
この事を訊いた野本さんは心底ガッカリしていた。
彼にしてみれば、せっかくの性欲処理の機会を失ってしまったのだから当然と言えば当然だろう。
「どうして、そんな事言っちゃったんだよ~」
そう言って、軽く僕を嗜めたりもした。
だけど、あの時は・・・あの2人の濃厚な絡みを収めたDVDを見た時は、すっかり綾乃は野本さんとのセックスに堕ちたと思ったし、勿論、夫である僕とのセックスを嫌がる訳はない。
つまり、野本さんとも、僕ともセックスをするのが嫌じゃないのなら、2人同時に相手にしても良いじゃないかと言う、今思えば「アホか」と言う短絡的嗜好で、軽く妻を誘ってしまったのだ。
「何か気に障る事したなら謝るよ、俺、鈍いからさ、奥さんのこと怒らせたならごめんね」
階下から野本さんの声がする。
「いえ、野本さんは何も・・・怒ってないですよ」
「ホント?」
「ホントです」
「じゃ、なんで最近、呑みに誘ってくれなかったの?」
「それは・・・」
「やっぱり俺の事嫌いになった?」
「そうじゃないです」
「そっか、良かったよ」
やっぱり3Pの事は野本さんには言えない様子の綾乃。
「野本さんは彼女とか・・・」
「いません」
話題を「野本さんの彼女」にそらす綾乃。その途中でキッパリと「いない」と否定する野本さん。何故、そんなに力一杯言うのかと可笑しくなったけど、声を出したら扉を開けて盗み聞きしているのがバレてしまうかもしれないと我慢する。
「ですよね~、居たら、こういう事は彼女さんがシテくれますもんね」
「まぁね」
何で自慢げなのかと更に可笑しくなったけど、やっぱりバレるのが怖くて堪える僕。しかし、こんな何気ない会話のやり取りも画面越しでなく直に盗み聞きしていると言うだけで、何だかイヤらしい気分になってくる。
「あの、シテもらっても、いいんだよね?」
「あ・・・はい」
急に野本さんがフェラチオ開始の口火を切った。それを機に、綾乃の声が小さく暗い感じになったけど、それでも、ここからは彼女の声が聞こえる。
この分だと、期待以上に色々な会話や音を楽しめるかもしれない。
「じゃ、その・・・脱ぐね」
野本さんが言った。
綾乃の返答の声は聞こえなかったけど、そのかわり階下からカチャカチャとベルトを外すような音が聞こえた。それから「チーッ」と言うジーンズのファスナーを下げる音・・・ゴソゴソとした衣服の音、おそらく野本さんがジーンズを脱いだのだろうと想像する。
「あ、座ったほうが良いかな・・・」
「どっちでも・・・」
「寝転んでもいい?」
「はい・・・」
どんな態勢でフェラチオを開始するか相談する、妻の声と友人の声・・・途端に僕の股間に血液が集まりだすのを感じる。
普段は、野本さんが下着まで脱いで、綾乃がフェラチオを開始する直前で録画が始めるから、こんな生々しい会話を聞いた記憶がない。なんだか興奮する。
「あの・・・これも脱がない・・・と」
「あ、うん・・・」
それからゴソゴソとした音が再び聞こえた。
どうやら野本さんはトランクスを脱がずにいたらしく、妻に「それを脱がないと出来ない」と指摘されたようだ。まぁ、見えないのであくまで予想だが、おそらくこんな所だろう。
――ピっ
電子音が聞こえた。
録画開始ボタンを押した時の音だ。
(録画が始まったと言う事は・・・)
電子音が聞こえたのを境に、2人の会話する声が全く聞こえなくなった。
野本さんが録画ボタンを押したと言う事は、録画すべき行動が開始されたと言う事だ。
(あぁ、始まった。今、まさに、この同じ空間で綾乃が野本さんのモノを舐めているんだ・・・僕の綾乃が・・・すぐそこで友人のモノを口で・・・あぁ)
それは思った以上の興奮だった。まだ階下からは何の物音も聞こえないし、どうなっているのか様子を窺うすべもない。ただ、録画が開始された事実が解るだけ・・・。
僕は何度も画面越しに妻が野本さんへ口奉仕する姿を見ている。妻には内緒とは言え、実は2人が濃厚なセックスをしている姿も見ているし、恥ずかしそうに野本さんにパイズリする姿も見ている。
でも、それらはすべて終わった後の事だ。
僕がそれを目にするのは必ず、すべてが終わった後であり、その画面の中の時間に自分自身は居ない。
でも、今日は違う。
綾乃との約束だから、画面の中の時間に僕は登場できないけれど、今、僕はここに居る。綾乃が野本さんに奉仕している空間に居る。同じ時間を過ごしている。
綾乃のイヤらしい舌使いや、チラリと覗く胸の谷間。小さな口で一生懸命に男根を頬張る姿や涙目になって、喉深くまでそれを咥える姿・・・今は何にも見えない。
それでも僕の興奮は今までで一番だった。
――ゴソゴソっ
階下で身動ぎするような音が聞こえた。
「久しぶりだから・・・気持ちいい・・・」
小さな声だったけど、野本さんがそう言った。
それに対する綾乃の反応はない。
(舐めてる・・・)
しかし、これで見えなくとも綾乃が野本さんのモノを今、間違いなく舐めているのが確定した。そうじゃないと「気持ちいい」なんて野本さんは言わないはずだし、仮にフェラではなく手コキだったとしたら、手を上下させる衣擦れの音がここまで聞こえるはずだ。
それにしても、舐めているなら綾乃の息遣いとか少しくらい舌で舐め廻す時の音とか聞こえても良さそうなものだ。
僕が2階に居る事を意識して音を立てないようにしているのだろうか。
「あぁ、それ、気持ちいい・・・」
野本さんが言った。彼の言う「それ」が何を指すのか気になる。綾乃が今どこをどういう風に舐めているのか想像してみる。
まだ始まったばかりだし、そう激しい口撃ではないと思う。綾乃がフェラチオの序盤で舐める箇所と言えば・・・裏筋をチロチロと舐めるか、男根の付け根あたりを舐めるか・・・そんなところだろうか。
いずれにしろ、その一部始終はビデオに撮っている訳だから、後でそれを見れば確認できる。
「奥さん、やっぱり上手だね」
野本さんが言った。
「そんな事・・・ないですよ」
綾乃が返答する。
コトが開始されてから初めて聞く綾乃の声。何でだか解らないけど、それだけで急に身体が熱くなる。
「いや、上手いって、ホント、孝介が羨ましい」
「そんな事ないですよ」
それから、ゴソゴソと言う身動ぎの音がして再び静かになる階下。
しかし心なしか、このゴソゴソと言う音が頻繁に聞こえるようになってきた。それだけ階下の2人がソファの上で身体を動かしていると言う事だろう。
――ペチャっ
と、その時、水っぽい音が聞こえた。
僕の妄想がさらに加速する。この音は間違いなく綾乃が野本さんのモノに舌を這わせている音だからだ。
「あぁ、すげ・・・気持ちいい」
野本さんのセリフに合わせて、綾乃が彼の股間で男根に舌を這わせる姿を想像していると、再び同じようなペチャっと言う音が聞こえた。
全く音をたてないで舐め続けて男性を果てさせるのは難しいだろうと思う。
おそらく綾乃も同じことを考えているに違いない。かと言って、野本さんを射精させるまで、この行為は終らない事は誰でも解る。
最小限の物音で彼を果てさせようとは考えているかもしれないが、全く物音を出さない事は諦めたに違いない。
――ペチャっ・・・ペチャぴちゃ
そこを境に、階下から頻繁にそんな音が聞こえるようになってきた。
――んはぁ・・・っ
耳を澄ませると、男根に舌を這わせる合間に息を吸い込む綾乃の様子も何となく解る。
「あぁ・・・・」
そしてハッキリと聞こえる野本さんの快感の声。
しばらくはそれが延々と続いた。
「あの・・・イケますか?」
延々と続いた後で、綾乃がそう言った。
「うん、久しぶりだから、あっと言う間に出ちゃいそう」
それに野本さんが応じる。
「あの・・・出してもいいですから」
「でも、勿体なくて」
「そんな、終わらないと・・・困ります」
「そだね、あの、じゃさ、パクっとしてくれない?」
そんな会話が聞こえた。どうやら会話から察するに、フェラチオが開始されてから今まで、綾乃は野本さんのモノを咥える事なく、ひたすらペロペロと舐めまわしていたようだ。
男根を咥えて本格的にしゃぶると、どうしたって卑猥な音が出る。
(やっぱり音が出ないように意識してるんだな)
2階にいる僕を意識して物音に細心の注意を払っているのは間違いないだろう。
だけど、野本さんは舌の奉仕だけでなく咥えて欲しいと望んだ。
(どうするのかな・・・)
僕は静かに階下の話の成り行きに耳を傾ける。
「あの、そうしたらイケます?」
「うん、たぶん秒殺」
そう言って笑う野本さん。
「口に・・・出すんですか?」
「出来れば・・・外に出すとソファ汚しちゃうかもしれないし・・・」
「・・・そうですね」
「口に出しても良い?」
「・・・でも、出そうな時は教えてください」
「解ったよ、嬉しいなぁ、奥さんの口の中に出せるなんて」
「ちょっ、大きな声出さないでくださいよ」
「なんで?」
「孝介に・・・聞こえちゃう・・から」
もう遅い。
ハッキリと聞いた。自分の妻が夫でもない男に口内発射を許す瞬間を・・・。
僕は耐えきれずにズボンの上から、ギンギンになった自分の男根を握った。
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