「しっかしな~、こんなに早く結婚するとはな~」
宏和は驚いた表情でそう言った。
「そうだよね~、まさか卒業してすぐに結婚なんてね~」
知美ちゃんも宏和に負けず劣らず驚きの表情を見せてそう言う。
僕と美紅は結婚した。
専門学校を卒業した僕達は、世間の就職難などどこ吹く風とばかりに就職を決めた。
世間一般的には不景気でも、僕達の業界は慢性的な人手不足で就職口は引く手あまただったのだ。
しかし、就職したばかりの僕は当然給料も安い。
美紅には申し訳ないけれど、当分は共働きになるのは我慢してもらうしかなかった。
宏和と知美ちゃんもきちんと就職した。
だが、宏和以外の僕達3人はシフト制の勤務だったから、土日が休みと言う訳にもいかなくて、こうして4人集まるのも久しぶりだった。
「おまえが結婚するって言いだした時、絶対ガキでも出来たんだと思ったぜ?」
宏和が言った。
僕と美紅の間にまだ子供はいないし、その気配もない。
だけど、僕は卒業と同時に・・・貯金なんて一円もないのに美紅にプロポーズした。
ロクな指輪も変えない僕だったけれど、美紅は最高の笑顔で僕のプロポーズを承諾してくれたのだ。
「子供はまだだけど、早く結婚したかったんだよ」
「世間にはいい女がいっぱいいるんだぜぇ?後で後悔すんなよ?」
「あんたは、またそんな事ばっか言って!別れるよ?」
宏和と知美ちゃんも、何のかんのと言って、卒業以来仲良く続いていた。
この2人は憎まれ口を叩き合っているが、これでなかなか相性が良いようだ。
「美紅ちゃんもさ~、木下なんかと結婚して後悔するかもよ~?」
宏和が懲りずに言った。
「しないもん、後悔なんて」
美紅がキッパリとそう言ってくれるのが嬉しい。
あれから・・・つまり、僕が一時の衝動に駆られて、美紅を宏和に差し出してから、僕はもっともっと美紅の事を愛しく思うようになった。
それは、宏和への嫉妬だったかもしれないし、僕以外の男に喜びを与えられる美紅の姿を見た焦りだったのかもしれない。
とにかく自分でも理由は解らないけど、少しでも早く美紅を心や身体だけでなく、法的にも僕のものにしてしまいたいと願うようになったのだ。
「ところでおまえら、あれからもやってるのか?」
「やってるって・・・なにを?」
僕は宏和に訊ね返した。
この時は本当に彼が何の事を言っているのか解らなかったのだ。
「あれだよ、あれ!カップル・・・じゃなくて、もう夫婦か・・・まぁ、どうでもいいけど、エッチの相手を交換するやつだよ」
「やってないよ!」
あれはあの時一度きりの過ち。
若さゆえの暴走。
僕はそう思っていた・・・いや、正確には思うように努めていた。
「なんだよ~、残念だなぁ、俺ならいつでも相手になるのに・・・ね?美紅ちゃん」
美紅は、あの時のことを話題にされると、途端に顔を赤くして俯く。
当然だ、世界に彼女の恥ずかしい姿を知っている男は2人だけ。
そのうちの1人が宏和なのだ。
「宏和~!いいかげんにしなさいよ!」
知美ちゃんが間髪入れずに彼を叱る。
「なんだよ~、おまえだって木下とエッチしても良かったのに~って言ってたじゃねぇか」
「ちょっと、何で今そんな話するのよ」
「だって本当の事だろ!?」
油断するとすぐ口げんかを始める2人。
「まぁまぁ、喧嘩するなって」
僕はニッコリ笑ってそれを仲裁する。
しかし、宏和の言った事に内心はドキリとしていた。
人の性癖なんてものは、そうそう簡単に改まるものでもない。
僕は美紅と夫婦になってからも、彼女が僕以外の男に身体を弄ばれる事を想像しては興奮する・・・そんな事もあった。
だからと言って、彼女を不特定多数の男に差し出そうなんて気はさらさらない。
けれど、今目の前にいる友人は、すでに美紅の身体を一度味わっている。
(1回も2回も同じだよな・・・)
そんな風に想う事も少なくなかったのだ。
それに、何でも人のせいにするのは良くないと解った上で、あえて言わせてもらえば、美紅だって悪い。
彼女は、結婚した後も性的好奇心は旺盛だったし、僕が何か思いついて、それをやってみたいと言うと、どんなに恥ずかしい事でも拒否することなく言いなりに従った。
そんな彼女の態度は、僕を益々助長させ、僕が望めば、また知らない誰かに抱かれてくれるんじゃないかと思わせた。
あれから、こういう類の話題が僕らの間で交わされる事は多くなかったけれど、僕の記憶が確かなら、美紅は「宏和に抱かれる事」に拒否は見せなかった。
ただ「僕が知美ちゃんを抱く事」に強い拒否を見せただけだ。
「でもさ、マジな話・・・そのうちもう1回しない?あれ・・」
宏和がそう言った。
知美ちゃんはもう呆れた顔で何も言わない。
「いやいや、俺たちもう結婚したし、だいたい美紅が許してくれないよ、そんなの」
僕は宏和の望みを実現できない理由を美紅のせいにした。
「美紅ちゃ~ん、お願いだからもう1回しようよ・・・ね?俺、ちゃんと避妊もするし、美紅ちゃんがいやがるような事は絶対にしないからさ」
宏和が続ける。
その本気丸出しの態度に、さすがの知美ちゃんの表情にもイラつきが見て取れる。
「もうっ!じゃあ、私、木下君とエッチするからね!いいの!?」
「あぁ、いい、いい・・・美紅ちゃんがもう一度させてくれるなら・・な」
「ダメぇっ!ダメだもん!いくら知美ちゃんでも、それはダメっ!」
予想通り、美紅が拒否する。
やっぱり、自分が宏和に抱かれるのはともかく、僕が知美ちゃんとエッチするのだけは我慢できないようだった。
「でもさ~、美紅は宏和とエッチしたじゃない?」
「それは・・・達也君がそうしろって言ったから・・・」
美紅は結婚してから僕を下の名で呼ぶようになった。
イマイチそれにはまだ慣れていないから、人前でそう呼ばれるのは何だかくすぐったい。
「理由はどうあれ、エッチはした訳なんだからさ、私が木下君とエッチしても文句は言えないよね~」
「それは・・・そうかもしれないけど・・・」
美紅にしては珍しく、唇を尖らせるような表情を見せて、不満を露わにする。
「でしょ!?」
「でも・・・やっぱり、ヤダ・・・」
「じゃあ、少しずつリハビリしようよ」
「リハビリ?」
「そう、いきなり私と木下君がエッチするのは耐えられないだろうから、少しずつ慣れてもらうの」
知美ちゃんの意図が解らないけど、段々と話が妖しげな方向へ向かっていく。
「まずは~、フェラしちゃおっかな~」
「へ?」
「フェラはあの時木下君にもしてあげたんだよ~、知ってた?」
「え?嘘っ!私知らないよぅ」
美紅が唇を尖らせたままで僕を見る。
「あ、いや・・美紅と宏和の姿見てるうちに我慢できなくなって・・・さ、そしたら知美ちゃんが口でしてくれるって言うから・・・思わず」
「もう時効だよ~、それに美紅と宏和なんて、もっと凄い事してたんだから、その時」
「・・・・・」
「決まりだねっ!じゃあ、宏和も黙って見てなさいよ~」
「おまえ本気かよ」
「本気だよっ!言っとくけど、私が木下君にフェラしてる間、美紅に指一本触れちゃダメだからねっ!」
「なんでだよ~」
「これは、あの時の仕返しなんだから、また2人がエッチしたら仕返しにならないでしょ!?」
「仕返しって・・・」
「じゃ、木下君、してあげるからズボン脱いで」
「いや、でも・・・」
僕はチラリと美紅を見る。
どうみても不機嫌だ。
「美紅も文句ないよね!お互い様なんだから」
知美ちゃんがあの時の事を根に持っていたとは計算外だ。
これは僕にとっては喜ぶべき計算外かもしれないけれど、美紅の表情を見ていると、とてもじゃないけど、彼女達の目の前で知美ちゃんに口でしてもらう訳にはいかなかった。
「いや、知美ちゃん、さすがにそれはマズいよ」
僕は美紅の顔色を窺いながら知美ちゃんにそう言った。
「くくっ・・・ぷぷっ」
突然、知美ちゃんが堪えきれない様子で笑いだす。
「な、何?何かおかしい?」
「んふふ・・・だってぇ~、木下君があんまり困った顔するからさ~」
「あっ!さてはからかったな!?」
「当たり前でしょ~、どこに新婚家庭に来て、その家の旦那にフェラする友達がいるのよ~」
昔からそうだったけど、掴みどころのない娘だ。
さっきまでのは、どうみても本気で言っているような気がした。
「じゃあ、宏和も俺の事騙したんだな!?美紅とエッチする気なんかないくせにっ!」
「あ、いや・・・俺はちょっとマジだったけど・・・ははっ」
力なく笑いながらそう言う宏和。
こいつも掴みどころのない奴だ。
「もぉ~、びっくりしちゃったよ~、あんまり驚かせないでよね~」
美紅がホッとしたような表情を見せて言った。
「美紅があんまり幸せそうだからさ、ちょっと意地悪してみたくなっちゃっただけだよ」
「それにしてもヒドイよ~、私、てっきり知美が本気で達也君と・・その・・しちゃうつもりかと思ったよ」
「そんな訳ないでしょ」
知美ちゃんがそう言うと、僕らは一斉に笑った。
その場はとても和やかで、平和で、そして幸せな空間だった。
だけど・・・僕の心境は穏やかじゃなかった。
元々、そうした性癖を力づくで封印していた僕にとって、僕が知美ちゃんと、そして美紅が宏和とエッチを楽しむと言うのは願ったりだったし、それが本当に実現するかもと一度思ってしまったのだから。
僕の美紅は、僕の望む事は何でもしてくれた。
それが例え、僕以外の男に弄ばれるような行為でも・・・。
この後、数か月してから、どうしても我慢できなくなった僕は宏和に再び美紅を抱きたくないかと言う話を持ちかけた。
美紅を気に入っている宏和は、一も二もなく僕の提案に飛びついた。
やがて、宏和と知美ちゃんも結婚した後で、僕達4人は互いにパートナーを交換して行為に及ぶようになるのだが、それはまた別なお話・・・。
―Fin―
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