あれから、僕と明日香の間には何もなかった。
兄妹なのだから当然と言えば当然なのだが、あんな事までした仲である彼女と一つ屋根の下で暮らし続けていると変な気分にならない訳でもない。
正直、僕はよく我慢している方だと自分で思っていた。
明日香は僕へ口で奉仕した事をお酒が醒めても覚えていた。
「そんな、記憶なくなるほど酔っぱらってないよ」
事も無げに明日香は僕にそう言ったのだ。
「こんちは~」
雄大と真由ちゃんも、あの事については何も言わなかった。
お酒の上での事だったし、特に雄大に至っては、自分が言い出した事の結末だった訳だから、どうこう言う資格もない。
だから、僕は今日もこうして当たり前のように雄大の部屋へ遊びに来た。
「おぅ・・・」
いつものように椅子にふんぞり返って座る雄大。
しかし、その表情はどことなく曇っているようにも見える。
それでも僕はその事には触れずに、雄大が新しく買ったマンガを読み耽っていた。
「おじゃましま~す」
そうこうしているうちに明日香がやって来た。
「あれ!?真由は?」
彼女は入って来るなり、僕と雄大にそう訊ねる。
マンガに夢中になっていて時間が過ぎるのを忘れていたけど、確かに真由ちゃんが来ていないとおかしな時間だ。
「あぁ・・・部屋にいるんじゃないか?」
雄大はそう言った。
真由ちゃんはもう帰宅して部屋にいるらしいのだ。
しかし、だったら何故ここへ来ないのか・・・。
「知らねぇよ・・・」
雄大は僕に向かってそう言った。
彼にしては珍しく歯切れの悪い言葉が気になる。
「なに!?ケンカでもしたわけぇ?」
明日香が雄大をからかうようにそう言った。
「ま、まぁな・・・」
だが雄大はそれをあっさりと認める。
雄大はこんな奴だから真由ちゃんとケンカになる事は珍しくなかった。
だから僕も特に気にはならなかった。
こう言う時は僕が雄大の部屋で、明日香が真由ちゃんの部屋で時間を過ごし、そうこうしているうちに兄妹喧嘩など収まるものなのだ。
「あっそ!じゃあ、私は真由の部屋行こ~っと」
そのあたりの事は明日香だって勿論理解しているから、彼女はそう言って雄大の部屋から出て、すぐ隣の真由ちゃんの部屋へ入って行った。
しかし、雄大の様子がおかしい・・・。
どうにも落ち着かない感じと言うか、フワフワしていると言うか・・・いつもどっしりとしている分、余計にそれが目立つ・・・。
「何かあったの?」
僕はそんな雄大に向かって訊ねた。
こう見えても彼は僕の親友だ。
悩み事があるのなら真剣に相談にのってやりたいと思う。
「ん?あ、いや・・・何でもないよ」
やはりおかしい「~ないよ」なんて、そんな言葉使いを雄大がする時には「何でもなくない」のだ。
「何かあるなら言ってみてよ、少しは役に立つかもしれないだろ?」
僕はもう一度彼にそう言った。
「何でもないって、言ってんだ・・・」
――バタンっ!
雄大が途中まで言葉を発した時だった。
明日香が勢い良く、ノックもしないで雄大の部屋に入ってきた。
どういう訳か一見して解るほどに怒っている・・・。
「ちょっと雄大!真由に訊いたよ!どういうつもり!?」
僕は明日香のあまりの勢いと剣幕に驚いたけど、雄大は明日香がこうして部屋に戻って来る事を予測していたようで全く驚きの表情を見せない。
「・・・・・・」
「どう言うつもりって訊いてるでしょ!?」
無言を貫く雄大に明日香が再び言った。
「ちょっ、ま、待てって・・・どうしたんだよ明日香・・・なに怒ってるんだよ」
「怒るに決まってるでしょ!?」
「だから、なんで怒ってるんだよ・・・落ち着けよ」
「落ち着け!?落ち着けって!?落ち着ける訳ないじゃない!」
「どうしてさ、落ち着いて話さないと何で怒ってるのか解んないだろ?」
「解ってるはずよ!ねぇ?雄大!?」
僕はチラリと雄大の顔を見る。
確かに明日香の言う通り、彼は何故明日香がこれほど興奮しているのか察している様子だった。
「わ、訳わかんないよ・・・なんだよ・・どうしたんだよ?」
だが、僕には訳が分からないから、正直にそう言った。
「雄大ね、昨日の夜、真由に迫ったんだよ!」
「迫る?」
「そう!真由の胸触ったんだって!」
「胸を?」
「それだけじゃないよ!その後、その・・・アレを・・・真由に口でさせようとしたんだよ!」
「く、口でって・・・雄大が?」
「そう!」
「真由ちゃんに?」
「そう!!」
そんな、まさか・・・僕はそう思いながら雄大を見る。
そして瞬間的に明日香の言う事が真実なのだと悟った。
雄大は僕と明日香から目を逸らして、あらぬ方向を見ていたのだ。
彼は都合が悪くなると、いつもそうする。
僕は彼のそんな所も十分すぎるほどに知っていたのだ。
「雄大・・・なんで・・・」
「・・・・・・」
「なんでそんなこと・・・」
「・・・・・・」
僕は雄大にそう訊ねたけど彼は無言のままだ。
「真由・・・泣いてたよ?兄貴、行ってあげなよ・・・」
「あ、でも・・・」
真由ちゃんが泣いていたと聞いて僕は狼狽えた。
だけど、雄大が何故そんな事をしたのか訊かないままでここを去る訳にもいかない。
「雄大・・・なんで・・・」
「おまえらが・・・おまえらを見たからだよ・・・」
雄大がようやく口を開いた。
「え?」
「明日香が・・・拓也に口でしただろ?あれ、見てたら何だか俺も真由に変な気分になってきてよ・・・我慢できなかったんだよ」
雄大はポツリポツリと呟くように話しはじめた。
あの日・・・明日香が僕にフェラチオする姿を目の当たりにした雄大は、最初は明日香のそんな姿に嫉妬しているだけだったが、次第に真由ちゃんへ視線が向くようになった。
そして、兄妹でこんな行為に及ぶのはどんな気分なんだろうと思うようになった。
それでも彼は、その思いを自分の中に押し込めて我慢していたが、昨晩ついに風呂上りで薄着の真由ちゃんの姿を見ているうちに我慢も限界を超えて、彼女の部屋で大きな乳房に触れたのだと言う。
そうしてしまうと男なんてものは理性が簡単に吹っ飛んでしまう。
手から伝わるボリュームたっぷりの真由ちゃんの柔らかい乳房の感触に興奮した雄大は、その興奮を鎮めるべく、彼女の口に自分のモノを入れようとしたのだ。
「あきれて何も言えないよ・・・行こう!兄貴!」
「ど、どこへ?」
「真由の部屋!慰めてあげなよ、このバカのせいで泣いてるって言ったでしょ!?」
「あ、ああ・・・そうか・・・」
僕は無言のままで座り込む雄大を残して、彼女の部屋へ移動した。
※※※
「ただいま~」
「ただいま!」
僕と明日香は揃って自宅に戻った。
外はもう暗くなっている。
あれから真由ちゃんの部屋に行くと、彼女は確かに泣いていた。
明日香はあれこれと言葉をかけて彼女を慰めていたけれど、僕は何を言ったら良いのかも解らずに殆ど話さないままで自宅に戻ってきたのだ。
「ふ~・・・雄大にはあきれたね~」
もう眠ろうかと思っていた頃、明日香が僕の部屋へやってきて、真由ちゃんと雄大の話を蒸し返してきた。
「そうだな・・・でも・・」
「でも・・・?」
「解るような気がするよ・・・俺」
「なにが?」
「雄大の気持ち」
「何言ってるの?兄貴がそんなんでどうすんのよ!」
「でも、考えてもみろよ・・・真由ちゃんは可愛いし、胸だって大きいし・・・それに、俺と真由ちゃんがエッチする所を雄大は何度も見ているんだ」
「・・・・・・」
「そこにきて、明日香と俺の・・・その、あの時のことがあった訳だから・・・何だか変な気分になるのも解るんだ」
僕は正直に言った。
真由ちゃんの事は好きだし、僕以外の誰かが彼女へ猥褻な行為をする事など到底許せない。
だけど、僕は僕で、あれから明日香を見る目が変わっているのも確かだし、もっと言ってしまえば思春期まっさかりで性欲旺盛な時期である僕は、明日香がもう一度あの時と同じことをしてくれないだろうかと思う事すらあった。
雄大はそれを我慢できなかっただけで、僕と何ら変わりないのだ。
「兄貴も・・・?」
「なにが?」
「兄貴も・・・その・・・私のこと見て変な気分になるの?」
「そ、それは・・・」
変な気分にはなる。
だけど、それを今、このタイミングで明日香に正直に打ち明けると彼女は僕を軽蔑するに違いない。
「いや、俺はそんな事ないけどさ・・・雄大がそうだったんじゃないかなって・・・そう思っただけだよ」
「ふ~ん・・・そっか」
明日香は理解したのかしないのか解らないけど、一言だけ素っ気なく返答すると僕の部屋から早々に出ていった。
※※※
真由ちゃんと雄大がケンカになってから2週間ほどが経った。
勿論、あの2人がケンカをするのは初めてのことではない。
しかし、これほど長引いたのは初めての事だった。
(仕方ないよな・・・事情が事情だし・・・)
今度のケンカはいつもの兄妹喧嘩とは訳が違う。
なにしろ、雄大は真由ちゃんを「女」として扱おうとして彼女に拒否されたのだから、簡単に仲直りできるものでもないだろう。
昔からそうだけど、4人の中の誰かと誰かがケンカ状態になると、僕達は自然と4人で集まる事をしなくなる。
やがてケンカが収まった頃に自然と再び4人集まるようになる訳だけど、今回は2人の兄妹喧嘩が長引いていたから、僕と明日香も何だか雄大の部屋へは脚が向かずにいた。
僕は雄大と真由ちゃんの事はそんなに心配していなかった。
特殊な事情があるとは言え、元々、互いが猥褻な行為をする姿を目の当たりにしていると言う特殊な環境下にある兄妹だ。
時間が経てば少しずつ元の関係に戻るだろうと思っていたのだ。
それよりも困ったのは僕の下半身だ。
4人で猥褻行為に耽るようになってから僕はオナニーを殆どしなくなった。
真由ちゃんにしてもらう方が気持ちが良いし、なにしろ彼女は隣に住んでいて、いつでも会えるような状況にあるから、それは至極当然のことだった。
だが2週間もその行為から遠ざかると、さすがに欲求不満状態に陥る。
女の子の身体を知った僕は、それをオナニーで誤魔化しきる事は難しくなっていたのだ。
――ガチャっ
「兄貴~」
明日香がノックもせずに僕の部屋に入って来た。
「ん~?なんだよ」
「あの2人さ~、今回のケンカはさすがに長いね・・・」
「そうだな、喧嘩の原因が原因だからな・・・もう少しかかるかもな」
「何とか仲直りさせられないかな・・・あの2人」
「放っておけよ、兄妹なんだから自分たちで何とかするだろ」
「でも・・・兄貴は心配じゃないの!?」
「そりゃ、俺だって早く仲直りして欲しいと思ってるさ、だけどどうしようもないだろ?」
「そうだけど・・・」
明日香は彼女なりに真由ちゃんと雄大を心配しているようだった。
勿論、僕だって全く少しも心配していない訳ではなかったけど、どうする事も出来ないのも事実だし、放っておくしかないと思っていた。
「おまえさ~、そろそろ、そう言う格好でウロウロするの止めた方が良いぞ?」
それよりも今の僕にとっては、溜めこんだ性欲をどうするかの方が問題だった。
だから、無神経に長めのTシャツにノーブラ、短いホットパンツだけの姿をして平気で兄の部屋へやってくる明日香にそう言ってやったのだ。
「そう言う格好って、どういう格好よ?」
「だから、今みたいな・・・そう言う露出の多い格好だよ」
「いいじゃない、家の中なんだから、誰も見てないんだしさ」
「俺がいるだろ!?」
「あら?なに?兄貴、私を見てムラムラしてる訳?」
「誰もそんな事言ってないだろ!?」
「ははぁ・・・なるほど、真由と雄大がケンカ中で、エッチが出来ないから欲求不満なんだ・・・そうでしょ!?」
「ばっ・・・違うって・・・そんな訳ないだろ」
「隠さなくてもいいじゃない!確かにね~、もう2週間にもなるもんね~、そりゃ妹見てムラムラきても仕方ないか」
「だから、違うって言ってるだろ!誰がおまえなんかを見てムラムラするかっ!」
「おまえなんか?今、おまえなんかって言った?」
「い、言ったよ・・・何だよ・・・」
まさに売り言葉に買い言葉とはこの事だ。
今や僕と明日香までもが兄妹喧嘩に突入しようとしている。
欲求不満とは恐ろしいものだ。
「ほほぅ・・・じゃあ兄貴は私を見ても何とも思わない訳ね?」
「当たり前だろ?」
「ふ~ん・・・わかった」
ところが明日香はそう言うと、僕のベッドに、僕と並ぶようにして座り込んだ。
「な、何だよ・・・もう寝るんだから出てけよ」
「いや~」
「何でだよ」
「こうするから・・・」
明日香はそう言うと、僕の右手を取って自分の左の胸へ押し付けた。
「なっ・・・!」
僕は右手に力を込めて、熱い物にでも触れてしまったかのように反射的に手を戻す。
「何するんだよ!」
「別に~・・・兄貴こそ何で手引っ込めちゃうの~?」
「なんでって・・・」
「私なんかでムラムラしないならいいじゃない・・・触ってても」
明日香はそう言いながら、再び僕の右手を取って自分の左胸に押し付ける。
(や、柔らかい・・・な・・・)
右手に感じる柔らかな感触は、真由ちゃんの大きな胸に触れた時ほどのボリュームは感じないけれど、それでももう2週間もその感触から遠ざかっている僕にとっては新鮮な感覚を与える・・・。
「こっちも・・・触ってよ」
明日香がさらにそう言いながら、僕の左手を自分の右胸に押し付ける。
抵抗する事も出来るはずなのに甘んじて彼女にされるがままに動く手・・・。
ついに両手で妹の胸を触る事になった僕。
いくらTシャツ越しとは言え、明日香は風呂上りでノーブラだから、薄い布地越しに殆ど直接触っているのと違わない感触だ。
「ほらほら・・・真由みたいに大きくないけどさ・・・私だってそれなりでしょ?」
「・・・あ・・う」
明日香が悪戯っ娘みたいな顔をしているから、僕は明らかにからかわれている。
それは十分に解っている。
解っていても尚、その柔らかくて温かな感触に抗うことが出来ない僕の身体。
当然のことのように、性欲を溜めこんでいた僕の下半身もこの感触に反応する・・・。
「さて・・・と、さっ、兄貴・・・立って」
「は?」
「いいから、今すぐに立って!」
不覚にも勢いよくそう言う明日香に大人しく従って立ち上がる僕。
この時点で僕は明日香に敗北する事が決まってしまった。
「それ、何よ~!」
明日香は意地悪な目をして、僕の股間を指差した。
その指の先には、一部分だけズボンの股間の辺りが盛り上がっている不自然な光景・・・。
「こ、これは・・・だって・・・」
「妹なんかでムラムラしないんじゃなかったの~?」
「む、ムラムラなんかしてない」
「じゃあ、それは何よ~、大きくなってるじゃん!」
「これは・・・あれだ・・・せ、生理現象だ」
「ほほぅ・・どんな?」
「つ、つまりだな・・・その・・・欲求不満だから、誰に何をされても立ってしまうと言う・・・そう言う生理現象だ」
嘘ではない・・・はずだ。
僕は今欲求不満状態だ。
だから、明日香に限らず誰かが手を胸に押し付ける・・・なんて事をしたら、例え相手が誰でも勃起してしまうはず・・・だから嘘ではないはずだ。
「でも、さっきは欲求不満じゃないって言ったじゃん」
「それは・・・その・・・まぁ、あれだ・・・嘘だ・・・本当は欲求不満なんだ・・・」
敗北・・・。
もう何も言い返す言葉が見当たらない。
欲求不満のあまり、妹の胸の感触に勃起した兄貴・・・もうそれで良いや・・・事実だし・・・。
「最初からそう言えばいいのに・・・」
明日香はポツリとそう言った。
言ってから、ただ黙って立ち尽くす僕の前に跪く。
「な、なにを・・!」
跪いた明日香が僕の股間に手を伸ばしてきたから僕は大慌てで言った。
何しろそこは完全に勃起している。
そんなところを触られては一たまりもない・・・。
「この間の・・・気持ち良かった?」
「え?」
「雄大の部屋で王様ゲームした時に・・・してあげたでしょ?・・・口で」
「あ、ああ・・・」
「気持ち良かった?」
「そりゃ・・・気持ち良かったよ・・・」
「またして欲しいと思う?」
「・・・・・・」
「ねぇ・・・どうなの?」
呆然と立ち尽くす僕の股間に明日香の手が触れた。
僕はもう嘘をつくことを止めた・・・いや、嘘などつく余裕がなくなっていたのだ。
「して・・・欲しいさ」
「・・・いいよ・・・今から・・・してあげるよ・・・口で」
明日香はそう言いながら、僕と目を合わせようともせずに、ただただ立ち尽くす僕のズボンと下着を降ろした・・・。
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