(まさか・・・そんな、佳純が・・・浮気なんて)
それは突然やってきた。
その時、妻の|佳純《かすみ》は、5歳になる息子と入浴中だったが、あまりにも彼女の携帯が長く振動しているのが気になって、思わずそれを手に取った。
今時のスマホは昔の携帯と違って折りたたまれている訳ではないから、手に取っただけで妻に電話をかけてきた主の名が自然と目に入った。
(鈴木・・・隆雄?・・・誰だ?これ?)
妻の携帯を振動させている主・・それは僕の知らない男だった。
しかし、携帯の画面に名前が記されていると言う事は、妻はこの男の名をアドレス帳に登録している。間違いなく、この電話の主は妻の知人なのだ。
ようやく携帯が振動するのを止めた。
浴室からは可愛い息子の騒がしい声と、それを咎める最愛の妻の声。
僕は思わず、彼女の携帯を操作して、ここ最近の着信履歴を見ていた。
(多い・・・)
最初の感想はその一言だった。
週に1回以上のペースで件の男の着信は妻の携帯に残っていた、それもここ最近、急にだ。
僕は自然と彼女の携帯のメールもチェックするが、その男からのメールと思しきものは一つもなく、残されたメールの殆どは僕からのものだった。
決定的だったのは、妻が浴室から出てきてすぐに、僕が電話の着信を彼女に知らせた時の態度だった。
「何か携帯震えてたみたいだぞ?」
「え?そう・・・」
濡れた髪もそのままに、すぐに携帯を手に取る妻。
「誰からだ?」
「うん・・・友達」
「男か?」
「や、やぁ~ね、女に決ってるでしょ・・・」
隆雄・・・なんて名の女が存在するなら教えて欲しいものだ。
それに、もう32歳にもなるんだから、自分が「嘘下手」である事を自覚して欲しいものだ。
嘘をつく時に慌てて目を逸らす癖・・・結婚前から全く変わらない。
(でも・・まさか、佳純が浮気しているなんて・・・)
その時の僕はにわかにそれが信じられなかったけれど、男からかかってきた電話を「女からだ」と嘘をつく理由は他に考えられない。
(本当に浮気しているのか・・・?佳純・・・)
僕は半信半疑のまま、濡れた髪をバスタオルで拭く妻の姿を眺めていた。
※※※
「佳純・・・いいか?」
僕は息子が寝息を立て始めたのを確認すると、妻の肩に手を廻して言った。
別に彼女を抱く事で浮気を確認しようと思った訳でもないが、何となくそんな気分になったのだ。
「え?今から?」
僕達の夫婦の行為は週末が殆どだった。
妻もパートをしていたし、僕も仕事で朝は早いから、どうしても平日は敬遠して週末のみの行為になってしまう。
しかも、僕ももう35歳になって、ここ最近はその週末の行為すらも、仕事の疲れでやり飛ばす事も多かった。
だから、平日の深夜、こんな時に誘ってきた事は、妻にとっては驚きだったに違いなかった。
「でも、明日も仕事でしょ?」
そう言う妻。
あの、鈴木とか言う男と存分にセックスしているから、俺とはやらなくても良いってのか。
「仕事だけど、ダメなのか?」
妻が浮気しているかもしれないと言う疑念が、少々僕の言葉を乱暴にする。
「ダメじゃないよ・・・怒ってるの?」
「怒ってなんかないさ」
妻の言葉で、少々自分の言動が乱暴になっている事に気が付いて、慌てて修正した。
「佳純・・・」
「あんっ・・・そんな慌てなくても・・・あっ」
何の色気も無いパジャマを身につけている妻。
僕はいきなりそのパジャマのズボンに手を突っ込んで、中のショーツの中にも手を滑り込ませた。
「あっ・・・待って・・・今、脱ぐから」
「あ、ああ・・・」
(どうも今日の僕はいつもと違う・・・)
そんな事を思いながら、自分のパジャマを脱ぎ捨てて妻へ視線を向けると、ちょうど妻も裸になった所だった。
僕が言うのも変かもしれないが、妻は27歳で子供を産み、30歳を超えても身体のラインは崩れていなかった。
自分では「少しお腹が出てきた」と言うけれど、それは女性特有の「気にし過ぎ」であって、夫の僕の眼から見たら、女性として十分美しかった。
――ムニュっ
「あっ・・・ん」
僕は美しい丘陵を形成する妻の乳房を掴むと、その勢いのまま彼女を押し倒した。
Eカップだと言う妻の乳房は、僕の片手では包みきれずに指の間からムニュリとはみ出している。
――チュッ・・・チュウッ
寝転んだ妻の乳房に顔を埋めて、そのままそこに舌を這わせる。
時折、乳房に赤い印が付くほどに強く吸い付きながら・・・。
「あっ・・・そ、そんなにしたら・・・痕が残っちゃう・・・」
――チュッ・・チュぅっ
それでもお構いなしに吸い付く僕。
「いいじゃないか、服に隠れる部分なんだから」
(それとも何か困る事でもあるのか?)
「そうだけど・・・パートの更衣室で他の奥さんと一緒になる事もあるんだから、恥ずかしいよ」
「恥ずかしがることなんかないだろ?夫婦なんだからセックスするのが当然だ」
「それはそうかもしれないけど・・・どうしたの?今日は・・・」
「どうもしないさ・・・」
右手を薄い陰毛で覆われた秘部へ伸ばす。
佳純は元々毛深い方ではないけれど、あらためて考えてみると、ここの毛は下着からはみ出さないようにキレイに整っている。
(別に水着を着る訳でもないのに、随分丁寧に処理してあるじゃないか・・・)
元々、そんなに毛深い訳でもないんだから、丁寧に処理する必要もないだろうに。
疑いだすときりがない。
「随分とキレイに処理してあるじゃないか」
「え?」
「ここの毛だよ、カットしてるだろ?これ」
「あ、ええ・・・さっきも言ったでしょ?パートの更衣室で着替える時に他の奥さんと一緒になる事もあるのよ、毛がはみ出てたら恥ずかしいもの」
(本当にそれだけか?鈴木とか言う奴に見せる為に処理してるんだろう?)
段々と疑念が確信めいたものに変わっていく。
何の証拠にもならないが、状況のすべてが「妻の浮気」を示しているように見えてならない。
――ピチャっ・・レロっ
僕は、まるで佳純が浮気している証拠を見つけようとするかのように、身体を移動させて彼女の秘部を舐め始める。
「あっ・・・あぁ・・ん」
佳純とは彼女が22歳の時に出会った。
高校生の時に付き合っている男がいて、そいつとは身体の関係もあったらしいが、僕が初めて彼女を抱いた時には、まるで処女のように恥ずかしがったものだ。
それがいつの頃からか、悩ましげな声をあげて感じるようになった。
勿論それは僕のせいでもあるのだが、こうなってくると浮気相手が妻の身体を開発したのではないかとすら思えてくる。
「気持ちいいのか?」
「う、うん・・・気持ちいい」
(こうやって浮気相手の男にも恥ずかしい部分を舐めさせているんだろう)
そう思うと、見えないその男に負けまいと、彼女を愛撫する舌に熱がこもる。
「あっぁ・・・ぁ・・・」
すぐ近くで寝息をたてる息子を起こさないように、出来るだけ声をあげないよう我慢する佳純。
いつもの事だが、それすらも、まるで僕に感じさせられる事を拒否しているように見える。
(くそっ!)
「佳純・・・口でしてくれよ」
「・・・うん」
僕は妻の愛液でヌルヌルになった口元を拭いながらそう言った。
どんなに佳純の秘部を舐めまわしたところで、浮気相手の男に叶わないような気がしてならなかったのだ。
――レロっ・・・チュっ・・・
態勢を入れ替えて、僕が仰向けに寝転がると、佳純はすぐさま僕の屹立したものに口をつけた。
少し顔を起こすようにして妻のフェラチオ姿を見る。
(そうやって、他の男にもしてやってるんだろう?俺以外の男のモノを喜んで舐めてるんだろ?)
「んっ・・・んっ・・んっ」
「う、お・・・」
佳純がパクリと僕のモノを咥えて、ゆっくりと頭を上下させ始めた。
それはいつもの彼女のフェラチオと何ら変わりなかったけれど、何故だか今日はいつもより気持ち良くて、思わず呻いてしまう。
佳純と付き合い始めた当初、本人には言えないが、彼女のフェラチオは酷いものだった。
時折当たる前歯、まどろっこしい舐め方・・・それなりに気持ちは良かったと思うが、男性を満足させる口技とはとても言えなかった。
(それをここまでにしたのは俺だ!俺なんだ!)
一から十まで、僕好みに仕込んだこのフェラチオを、今は他の男も楽しんでいるのかと思うと腹立たしい。
何の苦労もしないで、佳純のフェラチオを楽しんでいるだなんて・・・。
「もう・・いい・・・入れるから横になってくれ」
僕は佳純に口での奉仕をやめるように言った。
気持ち良くなかった訳じゃない・・・何と言うか、変な話だけど腹立たしい感情とは別の所で、僕の知らない男に口で奉仕する佳純の姿を想像すると、グンッと快感が倍増して、危うく彼女の口内で果てそうになったのだ。
――コロンっ
と、佳純は言われるままに寝転んだ。
彼女は胸も大きく、ウエストもクビれていて、いわゆる「いい身体」だとは思うが、大柄ではない。
その事を彼女自身も自覚していて「もう少し身長があればな~」と良く言っていたものだ。
だから、彼女が横になる様は「ゴロン」ではなく「コロン」と言う表現がピッタリくる。
僕も身長が高い方ではないけれど、それでも170cmほどはある。
対して妻はようやく150cmほどだから、抱きしめると懐の中に収まるようで愛らしい。
(鈴木とか言う奴の身長はどのくらいかな・・・)
――ヌチュっ・・ヌリュリュリュっ
僕は顔も解らない男の身長を想像しながら、目の前で両脚を静かに開く佳純の中へ、いつもより幾分か硬い男根を捻じ込んだ。
「あっ・・・あぁぁっ・・・け、啓祐・・啓祐・・・」
少し大きめの喘ぎ声を発した後で、|啓祐《けいすけ》と僕の名を呼びながら両手を背中に絡ませる妻。
佳純とのセックスでは、これもいつもの事で、結婚する前からそうだった。
一時、高校時代の彼氏にも、こんな風に名前を呼びながら抱きついていたのかなと思って嫉妬した時期もあったけれど、それはお互い様で、僕は僕で佳純と出会う前に付き合っていた女性がいた訳だから、そんな時期は長く続きはしなかった。
だけど、今現在・・・リアルタイムで進行している情事となれば話は別だ・・・。
僕と出会う前の佳純・・・僕の知らない佳純が僕以外の男にどうこうされるのは仕方のない事だが、出会った後、それも結婚して子供までいるのに、他の男に抱かれているとなると全く状況は違う。
――グチュっ、グチュっ、グチュっ・・・
ひたすら妻の腰へ目がけて腰を振る僕。
僕の下で気持ち良さそうに甘えた声をあげる妻。
そんな姿を見ていると信じられない事だが、今僕の下で揺れているこの女は、僕以外の男にも、同じようにこうして両脚をだらしなく開いて嬉声をあげているに違いないのだ。
(くそっ!くそっ!くそっ!)
「あっ・・・あっ・・あっあっあっ・・・け、啓祐・・・啓祐ぇ・・・」
怒りだか嫉妬だか解らない感情すべてをそこにぶつける僕とは裏腹に、感情をぶつければぶつける程に快感の喘ぎ声を大きくしていく妻を見ながら、僕は欲望のすべてをそのまま佳純の体内に放出した。
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